アサヒグループの経営理念は、「顧客満足」に尽きます。アサヒビール、NHK、東京芸術劇場と、お客様や組織の形態は違いますが、私の経営判断の柱はつねに顧客満足です。
2001年、発泡酒への参入がそうでした。前任社長の瀬戸雄三さんは参入を否定し続け、後任の私も発売する考えはないと表明していました。しかし、状況が一変します。まず発泡酒がビールの代用品ではなくなり、市場での商品構成比が約20%に上昇していました。
さらに試作品を飲んでみると、発泡酒特有のにおいがなくなっている。原材料の大麦エキスを英国から輸入し、醸造方法を変えたことで、においが気にならない。味もよくなっていました。「おっ、これはいけるかも」と思いました。
物事を判断するときは「顧客満足」でふるいにかける
他社が発泡酒で攻勢をかける中、社内は「うちも出すべき」と「まがいものを出してはダメ」という意見に二分された状況でした。社長として迷いましたが、風味がよくなり市場で受け入れられつつある商品を出さないのは顧客満足の追求にもとると、参入を決めました。
NHK会長時代、大相撲の野球賭博問題が発覚し、相撲の中継を継続するか中止するかの判断を迫られました。このときも基準は「視聴者満足」です。
NHKには放送中止を求める声が1万6000件、寄せられました。対して放送継続は8000件です。その中には「寝たきりの祖父が、相撲中継だけは起きて座って見ています。祖父の楽しみを奪わないでください」という切実な要望もありました。
最終判断は会長の私です。事件の重大性にかんがみて、中継は取りやめました。ただし、夜遅くまで起きていられない高齢者のために、ダイジェスト版を夕方6時台に流すことにしました。放送に間に合わせるには、6時に終わる大相撲を15~20分で編集しなければなりません。現場は神業のような素早い仕事で対応してくれました。
昨年の大震災後、東京芸術劇場はパイプオルガンコンサートを開催するかどうかをすぐに決める必要がありました。チケットの販売後でコンサートを自粛しても、得られるのは自己満足。観客満足ではありません。
コンサートの実施を決め、演奏前に舞台上で「チケット料金は全額を被災地に寄付する」ことを伝えると、観客からは拍手が湧き起こりました。物事を判断するときは「顧客満足」でふるいにかけるのが、私の一つの信念です。
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