背骨を活かすあばら骨 アサヒグループホールディングス相談役・福地茂雄氏②

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ふくち・しげお 1934年生まれ。57年長崎大学経済学部卒、アサヒビール入社。99年社長、2002年会長。08年から3年間NHK会長を務める。11年からアサヒグループホールディングス相談役。新国立劇場理事長、東京芸術劇場館長も務める。

「昼間は向かい同士で仕事をしろ。夜は背中合わせで飲みに行け」。これは私が昔から言っていることです。同じグループの人とだけ付き合っていてはダメ、違う仕事をしている人と交流を持つことが大事という例えです。

 ビールだけに詳しいとか、一つのことだけしか知らないというのでは、これからの時代やっていけません。幅広く、さまざまなジャンルのことに興味を持ち、感性を磨く必要があります。

アサヒビール社長の時代、コンビニエンスストアの社長と話をしていて、「一番の売れ筋商品は何ですか?」と聞くと、「おにぎりです」という答え。同じ日に外食チェーンの社長に会ったので同じ質問をすると、「おにぎりです」。コンビニと外食。まったく異なる業界で同じものが売れている。面白い現象だと思いました。

部門を超えたコミュニケーションで横軸を強化

一つの業界だけを追っていては見えないことがあります。売れ筋がおにぎりというのも、情報を共有して初めてわかることです。そうすると、「食べる場所が異なっても選ばれるのはおにぎり。では、どのようなおにぎりを開発すればいいのか」という視点から商品開発ができます。ここにビジネスチャンスがあります。縄張り意識が強くては発見できない事象が増えているのです。

アサヒビールの東北統括本部を視察したとき、八つのグループ会社が一つのフロアにあって、「これはいい!」と本部長を褒めたことがあります。アサヒビールの営業、経理、総務だけでなく、グループ会社もついたてで仕切っただけで同居しています。まさに垣根がないのです。

一つのフロアに一緒にいれば、商品の売り方も柔軟になります。たとえば、ビールテイストのノンアルコール飲料はアサヒビールが販売していますが、飲料部門からもよい提案が出るかもしれない。また、飲料部門の主力商品「三ツ矢サイダー」から派生した「三ツ矢サイダーキャンディ」は食品部門が取り扱っていますが、相乗効果がもっと出るかもしれない。オフィスの壁と同時に心の壁を取り払い、組織文化を共有することが、強い会社を生み出します。

人間は背骨が弱くては長く立っていられません。同様に企業も、背骨、つまり縦軸の組織が強ければ強いほどいいと私は考えます。ただ、強い背骨(縦軸)にあばら骨(横軸)が入らなければ、縦軸の強さが生かされません。部門、業界を超えたコミュニケーションを図り横軸を強化することが大切なんです。

週刊東洋経済編集部
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