自らの持ち場で全力尽くす

キリンホールディングス名誉相談役・佐藤安弘氏①

さとう・やすひろ●キリンホールディングス名誉相談役。1936年生まれ。58年早大商学部卒、キリンビール(現キリンホールディングス)に入社。2度の出向経験を経て90年取締役、96~2001年社長。01~04年会長。

どんな場所でも精いっぱいやることが大事

入社3年目、神戸支店にいたとき子会社への出向を命じられました。キリンがコカ・コーラ事業に進出することになり、新設会社である近畿コカ・コーラボトリングへ出向となったのです。

当時の上司と、あまりそりが合わなかったこともあり、半ば予想していたことでした。若いくせに意見をずばずば言っていたことが関係していたかもしれません。ただし落胆もしませんでした。人事は配属先の長に従うのが会社員のルールだと思っていましたから、割と淡々と受け入れました。 

この近畿コカには8年半いました。まあ異例といえば異例です。その間、経理のルールを決めたり、資金調達に駆け回ったり。何しろ新しい会社ですから、やることは山ほどある。増資をするための実務一切も取り仕切りました。生まれたばかりの会社だけに、若い自分も大きな仕事を任され、存分に力を発揮できたと思います。

近畿コカにはキリンから何人も出向者がいましたから、生え抜き組とは別に出向者だけで飲むこともあります。そんな席で「早くキリンに戻りたい」と愚痴をこぼす者もいました。ですが、私は帰りたいということだけは口が曲がっても言うまいと思っていました。そんなことを口にするのは情けないじゃないかという気持ちです。今と違い当時の出向は何となく後ろ向きの感じがありました。が、「人間至るところ青山あり」ではありませんが、どんな場所でも精いっぱいやることが大事です。

それに私は自分の能力の程度も知っていました。人は、自分は能力があるのにそれにふさわしい役割が与えられていないと感じるとき、つまり自分の評価と他人の評価にギャップがあるとき、不満を抱きます。ところが私はそんなに自分が優れているとは思っていませんでした。命じられれば何でもやるぞと自ら恃むところはありましたが、あれもやりたい、これもやりたいというふうでもなかった。受け身といえば受け身ですが、それぞれの仕事で全力を尽くすようにしていました。

端的にいって、自分と他人では評価が違って当たり前なのです。そこをわかっていない人が多い。皆、概して自分に甘い面がありますね。私が若い人にアドバイスするならば、与えられた課業をしっかり遂行すること、ベストを尽くすことです。不平不満を言うより、それを乗り越えていくことが大事です。それがその人の器量であり能力だと思いますね。

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