組織に対して忠実であれ キリンホールディングス名誉相談役・佐藤安弘氏②

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さとう・やすひろ●キリンホールディングス名誉相談役。1936年生まれ。58年早大商学部卒、キリンビール(現キリンホールディングス)に入社。2度の出向経験を経て90年取締役、96~2001年社長。01~04年会長。

「1人は万人のために、万人は1人のために」

キリンビールは1993年に激震に見舞われました。社員が総会屋に現金を渡していたとして逮捕されたのです。引責辞任をした総務担当常務に代わり、経理担当だった私がその後任になりました。それまで経理畑が長く、総務はこれまで経験したことのない部門です。法令順守の体制や総務の立て直しで、随分と苦労しました。

総会屋事件は私の知らないところで起きましたが、再発防止のポイントは社長が絶対に利益供与しないと社内で繰り返し強調することです。倫理基準のような形式的なことを決めるのも必要かもしれませんが、不正なことをしないとトップが徹底させる、それに尽きるかもしれません。

事件で社内が動揺する中、人の真がんというか価値が試されていると思いました。普段、調子のいいやつが正面から向き合わず逃げてしまっている。そんな様子を見ると全然ダメだと心底思いました。一方で、私が常々、好感を持っていた人物がうろたえることもなく堂々としているのを見て、やっぱり自分の評価は間違っていなかったと再認識することもありました。

困難なことに直面したときにこそ、その人の真価が初めてわかります。難事に際しての対応は、大体は予想どおりでありましたが、時に私の考えていた人物像と違ってがっかりすることもあり、アンテナを高くして人を見ないといけないと思いました。

この事件とは直接関係ありませんが、私が人を見るときに重視していたことは何か。古い考えかもしれませんが、組織に対して忠実であるかどうかという点です。言い換えれば利己心がないということです。自分を第一にするのではなく、ほかのメンバーや組織にどう貢献できるかを考える。私心なく全体の利益を考えられる人物は信用できます。

社長になって社内改革を担う部長クラスで何人かの抜擢人事を行いました。年次としては10年近く若返ることになりましたが、そのときも組織にとってベストの選択は誰か、その人物は最大限の貢献をしてくれるかを重視した人選でした。結果として彼らは十分な働きをしてくれました。

私自身もつねに組織のために何がよいかということを心掛けてきたつもりです。組織に尽くす会社人間もそれはそれでよいじゃないか、と思っています。「1人は万人のために、万人は1人のために」の精神が、組織がうまく機能するためのポイントです。

週刊東洋経済編集部
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