樺島勝一 昭和のスーパーリアリズム画集 樺島勝一著 ~写真よりもリアルな挿絵画家の全貌
「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」と言ったのは写真家の森山大道だ。本書をひらくとその言葉が思い出される。大正期から昭和の前半期にかけて、挿絵、風刺漫画に独自の世界をきずいた奇才の回顧作品集である。樺島勝一の名に覚えがなくともその絵を知らない戦前派の日本人はいないだろう。小松崎茂や山川惣治、水木しげるも憧れた画家だ。
樺島の描く媒体は雑誌『飛行少年』『少年倶楽部』『新青年』『アサヒグラフ』。小説では山中峯太郎『敵中横断三百哩』『亜細亜の曙』、南洋一郎『吼える密林』、海野十三『太平洋魔域』など。艦船や飛行機、戦争、探検、スパイ、野獣、SFと、そのモチーフは大日本帝国の翼の下で見る白昼夢のようなものかもしれないが、いずれも少年の冒険心をとりこにするワンダーランドだった。
「ぼくの絵の元型は樺島勝一」と、横尾忠則は彼の絵に潜む「内なる子供の視線」を指摘する。いつの世も変わらぬ子供の未知への関心、懐かしさをはらむ未来へのまなざしだ。樺島の卓越した技法はただの挿絵ではなく、絵をひとつの物語として完結させるものだった。それは文字表現を超えて心に染み入り、21世紀の日本人をも魅了する。
佐賀鍋島藩士の家系に生まれ、家の没落とともに鹿児島に移住。長崎港からの乗船時にもらったうちわの船の絵が幼い絵心に火を灯したという。吃音症が性格を内向させ、ペン画を独習。美術学校を出ていないことがコンプレックスだったが、英独蘭語を学び海外文献を渉猟し、該博な知識は作品を重厚なものにした。76歳で死去。戦後の『週刊少年サンデー』の帆船の絵が最後の作品だった。
小学館クリエイティブ 2940円
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