泣く子も笑う「テーマパーク歯医者」とは? キッズデンタルパークの"農耕型"戦略

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一般企業のチームワークを歯科業界に

赤坂の博報堂内にあるキッズデンタルパークの事務所で和やかなムードの中行われたインタビュー。溝田さん(右)は、ほぼ毎週シニアラグビーチームに参加し、試合・練習で汗を流すスポーツマン。木村さん(中央)も「休日は息子のバスケットボールに付き添ったり、外出が多いです」とアクティブ。一方、神保さん(左)の休日は意外にもほとんど家に引きこもっているという。

:検査などで器具を口のなかに突っ込むと、子どもってすぐに泣くじゃないですか。

溝田:泣かなくなる教育をしますし、キッズデンタルパークの診察室はオープンな作りになっていますので、周りとの競争心を育てることもできます。

神保:そもそも痛くない状態で通院することが当たり前になっているので、「歯医者では痛いことをされる」という認識がなくなるという側面もあります。だから、口の中に入れられても頑張れる。歯医者が嫌いな人は、痛い治療をされたというトラウマがあると思うんです。そして、歯医者さんに足を踏み入れなくなり、余計に悪化してしまう。

溝田:「甘い物ばかり食べていたら歯医者に連れてくわよ!」って親が脅しで使うくらいですからね。

神保:そうすると、「歯医者さんは痛い場所」とインプットされてしまいます。だから、お母さんに対しても、そういうことを言わないように教えていかなければならない。下手したら歯医者に行きたくないあまりに、「痛くない」と嘘をつくことさえあるんです。保護者を巻き込んで教育していかなければ、予防していくことができません。そう考えると、キッズデンタルパークを運営する上でのポイントは、やっぱり人材なんですよね。派手な外観ばかりに目がいってしまいますが、人材あっての予防なのです。

:木村さんは歯科衛生士ということですが、どのようなお仕事を?

木村:もともと成人の予防をやっている医院に勤めていたのですが、その時の縁で麻生院長と神保と知り合うことになって、その後、一緒にお仕事をすることになりました。私の主な仕事は、現場のサポートです。実際に現場のスタッフに交じって働くこともあります。今年7月にできた「銀座キッズデンタルパーク」にも運営サポートで週3回行っています。

:普通の歯科医院とは働き方が違いますか?

木村:やはり特別なやりがいがあります。普通の医院は先生からの指示待ちが基本ですが、ここでは歯科衛生士が主役になれます。自分が担当する子どもたちがいて、面倒を見るわけですから、医師の助手的な役割しかない衛生士さんたちと違って、積極的に仕事にかかわることができます。

:歯科の世界から、広告会社のグループ企業に勤めるのは勇気がいりましたか?

木村:歯科業界で十数年働き、狭い世界しか見てこなかったので、すごくよい刺激になっています。予防はとにかく、チームワークとコミュニケーションが必要なのです。だから、指示待ちでは駄目。博報堂のノウハウというよりは、一般企業の常識を注入できるのが大きいと思っています。

溝田:私は逆に広告業界に40年いたので、歯科業界の常識に驚く場合があります。

神保:歯科には専門知識はあるのですが、仕事のオペレーションを考えるノウハウがありません。そうすると、院長の力量がすべてになる。しかし、予防には患者さんの情報共有が重要になるので、誰か一人が分かっていればいいというわけにはいきません。たとえば、3歳未満のプログラムをその日に終える子どもが、正装してくることがあります。卒業式のように。その時、担当の歯科衛生士や保育士ではなくても、「おめでとう」と声を掛けることができれば、その子にとって特別な体験になります。歯医者が楽しいという意識付けができる。予防にはそうしたチームワークが必要です。

:なるほど。広告の業界の持つノウハウが歯科医のビジネスとマッシュアップして、新しいサービスが生まれる感じですね。

神保:ましてや保育士さんという別業界の人とも一緒に働かなければいけないので、歯医者としての常識を一度壊してもらう必要があります。一番の違いは、治療型の歯医者は”狩猟型”なんです。「痛い」という疾患を狩ることで、診療報酬をもらいますが多くは治療がすめば関係が終わってしまう。しかし、予防型の医院では、”農耕型”になって健康な人を育てていく発想が重要です。今日お金になるかどうかが重要なのではなく、ゆっくり育てていく農耕型に意識を変えなければなりません。

溝田:寄り添う時間が長いんですよね。広告と違って、出稿したら一段落ではない。

嶋の取材に応える神保さん。3人用のオフィスは決して広くはないが、アットホームな雰囲気であふれていた。

:最後に今後の目標を聞かせてください。

神保:最低、各都道府県に1院を開業し、予防プログラムを受けたい人は誰でも受けに行ける状態にすることが目標です。でも、先生にとって開業することは一生の決断です。完全に納得して判断してもらわないと、いい医院を作ることもできません。ですから、何年までに何院という目標は立てにくいのですが、地道に数を増やしていきたいです。  

嶋 浩一郎 博報堂ケトル共同CEO

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しま こういちろう

博報堂ケトル共同CEO・クリエイティブディレクター・編集者
上智大学法学部卒業後、93年博報堂に入社、コーポレートコミュニケーション局に配属。企業やブランドのPR・情報戦略に携わる。01年朝日新聞社に出向、「SEVEN」編集ディレクター。02年から04年博報堂刊「広告」編集長。本屋大賞の立ち上げに参画。06年既存の広告手法にとらわれないクリエイティブエージェンシー博報堂ケトル設立。カルチャー誌「ケトル」の編集長もつとめる。
主な仕事:KDDI、J-WAVEなど。主な著書『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』など

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