「もう服は一生買わなくても大丈夫」と気づいた日 「お金もち=おしゃれ」という方程式からの脱出

✎ 1〜 ✎ 41 ✎ 42 ✎ 43 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

で、ちょっと考えまして、そうかナルホド! とポンと膝を打ったのだ。

だってこの服たちは、どれもこれもわが友人および友人の友人たちが、時間をかけて集め、時間をかけて愛でてきたものばかりである。諸般の事情により今では登場機会が少なくなったとはいえ、時の流れという試練の中を生き残り、出番が減っても「どうしても捨てられない」というほどの愛を受けているものたちである。

ってことは……

そうだよ、私が選び抜いたわが精鋭たちと限りなく近い服たちではないか!

時の流れに耐えた服。もともと気の合う友達だから服のセンスも近いわけで、ってことは、これこそが私が求めていた、ボロボロになったわが精鋭たちに取って代わることのできる服たちではないかっ。

……ってことで、店じまいの時、売れ残った服の中から、われながら「うん、似合う!」と認定したセーターとカットソーとジーンズを選んでコレいただきますと言うと、「着てくれるだけでうれしいから!」とタダで良いという。結局、全員がそこそこのものを売り、残った服の中からそれぞれが好きなものを持って帰って日程終了。面白かったね、ぜひまたやろうぜと言い合って、全員が満足してホクホクと帰ったのであった。

服も満足、われらも満足、環境にも優しい

で、よくよく考えると、これって要するに、蓋を開けてみればオープンな「服の交換会」である。

服って不思議なもので、出番が少なくなった服も、持ち主が変わるとたちまち新鮮に輝きだしたりする。なのでこれはすごく合理的なやり方なんじゃないだろうか。いわば顔が見える範囲でのクローゼットの共有化ですね。

何もクローゼットを独り占めすることなんてない。3人寄ればクローゼットは3倍になる。これを続けていけば、最後には一度ヨメに出した服が巡り巡ってまた自分のところに戻ってきたりして、そしたらそれがまた案外新鮮で再びヘビロテ服になったりして……と想像するのも楽しい。

このようにしてボロボロになるまで服を着たおしていけば、服も満足、われらも満足、そして当然、環境にも優しいではありませんか。

そして私はといえば、これでマジでもう服を買わなくても一生、心から満足できるおしゃれを楽しんで生きていけるというリアルなゴールに到達したのであり、われながら実に灌漑深いものがあります。

もちろん実際には、尊敬すべき服作りをしている人を私なりに応援したい気持ちがあるので、ポツポツとお金は使うつもりだ。でもそれはそれだけのこと。肝心なのは、お金もち=おしゃれさんという方程式からの完璧な脱出口をついに見つけ出したということである。

実に長い間、好きなおしゃれを心ゆくまで楽しみ続けるためには、まずは頑張って金を稼がなきゃならないとリアルに信じ続けてきた。会社を辞めるときも一番悩んだポイントの一つは間違いなくそこであった。その強迫観念から、おそらくこれでもう完全に、何のやせ我慢も、何の矛盾もなく、リアルに脱却することができたのである。

こんな日が来ようとは考えてもみなかった。私は間違いなく、また一つ大きな自由を手にしたのだと思う。

稲垣 えみ子 フリーランサー

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事