「ペッパー」が呼び寄せた異能の”トヨタマン” ソフトバンクに飛び込んだ勇気と自信

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その後もトヨタで培ったノウハウも駆使しつつ、プロジェクトを進めた。林は2カ月ごとに孫社長とのミーティングを設定し、これを目標にギリギリ達成できる範囲の課題を決めていった。「ソフトバンクは社長の力が絶大。みんなが目標に向けて打ち込む。2カ月に1度、今回はここまでやるぞと旗を振るのが仕事だった」

アカデミアでの経験も役立った。当時は従来の業務と兼任するメンバーも多く、ロボットプロジェクトに関われば残業が増え、休日も減るなど、負担は大きかった。しかも、成功するかどうか見当もつかない。理屈だけで人は時間を割いてくれないし、メンバーのモチベーションを保つこともできない。「リーダーとしての思いが大事だ」。林は孫社長の教えに従い「面白いものを作ろう」と、自らのビジョンを伝え続けた。

孫社長が怒りを爆発させる2カ月ほど前から、林はロボット開発のために演劇のレッスンに通っていた。若者に交じって殺し屋や刑事、被害者など、いろんな役柄を演じた。数カ月後、演劇を通してあることに気付く。他人の真似ではなく「自分の中にあるもの」を引き出すことの重要性である。これを生かし、ロボットの外見や性能、声からどんなキャラクターがふさわしいか、ペッパーと”対話”しながら突き詰めていった。

ソフトバンクはベストパートナー?

林さんは未開の地に足を踏み入れる準備をしているのかもしれない(撮影:今井康一)

今年6月にデビューしたペッパーは、全国各地のショップで接客するだけでなく、イベントにも引っ張りだこ。9月の開発者向けイベントも盛況で、ソフトバンクのもくろみ通り、関連アプリなど、さまざまな周辺開発が一気に進みそうだ。

プロジェクトの立ち上げを終えた後、林は7月に子会社として設立されたソフトバンクロボティクスに移り、当面はペッパーに絡む開発を手掛ける予定だ。そして、「ロボティクス分野にはいくらでも未来がある。やれることはたくさんある」と意気込みを見せる。

今後も新しいプロジェクトに挑戦するのか。そう聞くと、こんな答えが返ってきた。

「良くも悪くも、先人の後を追うのは得意ではない。どこでも新しいことであればやってみたい。ソフトバンクは新しいことが多い会社。ベストパートナーであればいいと思っている」。

現在41歳、生粋のエンジニアはまだまだ満足していない。そして、未開の地に飛び込むチャンスを狙っている。

(=一部敬称略=)

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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