「ペッパー」が呼び寄せた異能の”トヨタマン” ソフトバンクに飛び込んだ勇気と自信

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ここぞと思った会社に入れなかった。悔しくてたまらなかった(撮影:今井康一)

大学院を卒業した林はトヨタに入社。高級車「セルシオ」の設計に1年関わった後、実験部へ配属された。大学で熱や空気や風などの流体の動きを解析するCFD (Computational Fluid Dynamics)を研究していた経験から、実験部でもCFDを担当した。だが、机に座ってコンピュータの画面をにらむ日々は退屈だった。

超高級車「レクサスLFA」の開発はトヨタにとっても未知の領域だった

チャンスは突然訪れる。スーパーカー「レクサスLFA」のプロジェクトに関わることになったのだ。後の10年に3750万円で売り出される超高級スーパーカーの開発は、トヨタにとっても未知の領域。すべてが手探りだった。林がCFDに基づいたモデルを設計し、実験を繰り返すと興味深い結果がどんどん飛び出す。開発に夢中になった。

実験部からF1開発スタッフへ

そして新たなビッグチャンスをつかむ。トヨタが2002年から参戦していたF1の開発スタッフに抜擢されたのだ。

ドイツの開発拠点に渡り、100人ほどの空力部門に加わった。そこに日本人は林だけ。当時、TOEICの得点は250点。ろくに英語を勉強していなかったことを激しく後悔した。覚悟を決めて現地では英語だけを話す環境に自分を追い込んだ。チームに加わって数カ月、林の提案は徐々に実戦のレースで採用され始め、入賞や表彰台も経験。結局、開発に4年間関わり、フロントウイング、リアウイング、ボディなどの設計に携わった。

帰国後はトヨタの本流とも言える製品企画部門に配属される。カローラなどを企画するチーフエンジニアを支えるサポート役で、30代前半としては”スピード出世”。レールに乗った感じもあったが、心の中で蠢く何かがあった。「何か新しいことをやりたい」――。

06年3月のソフトバンクによるボーダフォンの買収会見。新規参入を標榜していたが、戦略を切り替え、巨額買収に踏み切った(撮影:高橋孫一郎)

ソフトバンクといえば、NTTと真っ向勝負を挑む格好で01年にブロードバンド事業をブチ上げ、04年には日本テレコムを3400億円で買収。06年には1.75兆円で携帯電話のボーダフォン日本法人の買収を敢行するなど、話題に事欠かなかった。林はトヨタにいながら、ソフトバンクという存在がつねに頭の片隅にあった。

「買収されたあのボーダフォンがフェニックスのように復活するなんて、すごい」。憧れの会社はすさまじいスピードで巨大企業へと成長していた。

そして10年6月、孫社長は30年間に渡る経営ビジョンを発表し、同時に後継者育成機関「アカデミア」の開講を宣言する。当初、生徒を社員に限定していたが、2期目からは外部からの参加が認められた。千載一遇のチャンスを林が見過ごすはずがなかった。

「あの時落としやがって。自分を採用してくれていたら何かできたはずだ」。林は”リベンジ”に燃えた。

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