医師が遅い時間ほど「抗生物質」処方しがちなワケ プロフェッショナルでも気分に左右される事実

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医師のようなプロフェッショナルでも、判断にブレが生じる理由とは(写真:Pangaea/PIXTA)
希望する会社の採用面接、保険会社での審査、病院で受ける診断、ときには裁判……。私たちはあらゆる場面で、その分野のプロフェッショナルと言われる個人や組織の「判断」に身を委ねている。しかしその判断はつねに正しく、同じようなケースでも誤差なく平等に扱われているだろうか――。
行動経済学の創始者であり、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、最新刊『NOISE:組織はなぜ判断を誤るのか?』(オリヴィエ・シボニー、キャス・R・サンスティーンとの共著)で、組織やシステム内で生じる判断のばらつき=ノイズについて論じている。本稿では、同書より専門家と呼ばれる人たちが同一の事例に対して、なぜ均一な判断を下すことができないか、その理由について「気分」から考察する。

プロでもフリースローが100%入らないワケ

プロのバスケットボール選手がフリースローに臨んでいる。フリースローラインに立ち、集中し、そしてシュートを打つ。この正確な動きをプロ選手なら数え切れないほど練習し実践しているはずだ。では、このフリースローは入るのだろうか。

私にはわからないし本人にもわかっていない。北米プロバスケットボールリーグNBAの選手は、おおむね4本に3本はフリースローを成功させる。あきらかにフリースローのうまい選手はいるが、それでも生涯成功率が100%に達した選手はいない。歴代最高の名手でも90%をやや上回る程度だった(これに該当するのは、本書の執筆時点ではステフィン・カリー、スティーブ・ナッシュ、マーク・プライスである)。

逆にこれまでで最もフリースローが下手くそな選手は、成功率が50%前後だ(たとえばあの偉大なシャキール・オニールは53%だった)。リングの高さ(3.05メートル)もフリースローラインの位置(エンドラインから5.8メートル)もボールの大きさ(周囲約76センチ)と重さ(約600グラム)も決まっているにもかかわらず、うまくいくシュート動作を正確に繰り返すのは至難の業である。

当然ながらばらつきが起きる。それも選手間だけでなく、同じ選手であっても、だ。つまりフリースローは一種のくじ引きだと言える。シューターがカリーならオニールより当たりの確率が高いにしても、くじ引きであることに変わりはない。

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