医師が遅い時間ほど「抗生物質」処方しがちなワケ プロフェッショナルでも気分に左右される事実

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このばらつきの原因はいったい何だろうか。いくらでも考えられる。長い試合で疲れたのかもしれない。競り合っている試合で重圧を感じたのかもしれない。あるいはホームの熱狂的な声援で緊張した、逆にアウェイでブーイングを浴びて苛立った、等々。

カリーやナッシュのような名手が外したらこういう理由を考えたくなるが、実のところは誰にも原因はわからない。フリースローのばらつきは、ノイズにほかならない。そしてそのノイズには「機会ノイズ」という、同じ人や同じ集団が同一のケースについて下す判断に、その時々でばらつきが出るという見過ごせないノイズが存在する。

気分によって左右される

機会ノイズにはさまざまな原因があるにしても、誰もが気づく原因が少なくとも1つある。気分である。誰しも判断を下すときに気分に左右されたことがあるだろう。また、他人の判断が気分に影響されていると気づいたことも一度ならずあるのではないだろうか。

気分が判断に与える影響は、多くの心理学研究の対象になってきた。判断や意思決定のばらつきを計測する目的で人間を一時的にいい気分または悪い気分にさせることは、意外に容易だ。研究者はそのためのテクニックをいくつも知っている。たとえば、被験者に楽しかったことあるいは悲しかったことを思い出して短い文章を書いてもらうとか、楽しいビデオあるいは悲しいビデオを見せる、などである。

気分操作の影響について長年研究を続けている心理学者も少なくない。中でも最も多くの成果を上げているのは、オーストラリアの社会心理学者ジョセフ・ フォーガスだろう。フォーガスは気分に関する研究論文をこれまでに100本近く発表している。

読者がすでにお気づきのことも、フォーガスの研究によって裏付けられている。例えば、人間はご機嫌なときは肯定的で前向きになりやすい、悲しいことより楽しいことのほうが思い出しやすい、機嫌のいいときは相手の言い分を認めやすく寛大になり人助けに積極的になる、等々。機嫌の悪いときはその逆である。

フォーガスは「同じ笑顔に対しても、機嫌のいいときは親しみやすいと感じるが、機嫌の悪いときは馬鹿にされていると受け取る。天気についてのおしゃべりも、機嫌のいいときは楽しめるが、機嫌が悪いときは時間の無駄だと感じる」と語っている。別の言い方をすれば、気分は、判断、状況認識、記憶力、外部からのシグナルの解釈に計測可能な影響を与える。

だが気分には、もっと別の驚くべき影響もある。それは、考え方を変える働きをすることだ。おそらく読者はこのような作用があるとは想像していなかっただろう。この作用に関する限り、幸福で楽しい気分であることは必ずしもいいことばかりとは言えず、また暗く悲しい気分には意外な効能があることもわかってきた。しかもさまざまな気分のメリット、デメリットは、状況によってもちがってくる。

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