医師が遅い時間ほど「抗生物質」処方しがちなワケ プロフェッショナルでも気分に左右される事実

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道徳的な判断でさえ、気分に強く影響される。ある実験では、古典的な道徳哲学の問題として名高いトロッコ問題を被験者に考えてもらった。

線路を走っている一台のトロッコが制御不能に陥り、このまま進めば向かった先にいる作業員5人がひき殺されてしまう。あなたは跨線橋の上におり、もうすぐトロッコが真下を走る。あなた自身は小柄だが、隣には大男がおり、この男を線路上に落とせばトロッコを止めることができるだろう。そうすれば大男は死ぬが、5人の作業員は助かる。さあ、どうする。

トロッコ問題は、道徳的推論への異なるアプローチの対立を浮き彫りにする。イギリスの哲学者ジェレミー・ベンサムが提唱した効用計算に従うなら、失われる命は5つより1つのほうがよい。ドイツの哲学者イマヌエル・カントの義務論的倫理学に従えば、たとえ多数の命を救うためであっても誰かを殺すことは認められない。

トロッコ問題には、個人的感情の顕著な特徴が絡んでくる。トロッコを止めるために生きた人間を橋の上から落とすというのは、きわめて不快な行為だ。功利主義に則り大男を落とすにあたっては、赤の他人に暴力を働くことへの強い嫌悪感を克服しなければならない。敢えてそれをするという人はごく少ない(この実験では、10人に1人未満だった)。

楽しいビデオを見せると「結果」が大きく変わった

ところが、である。被験者に5分ほどの楽しいビデオを見せ高揚した気分にしてからだと、大男を落とすと答えた人が3倍に増えたのである。「汝、殺すなかれ」を絶対不可侵の掟とみなすか、5人を救うためなら1人を殺すかという重大な問題には、本来であれば深遠な道徳的価値観が反映されなければならないはずだ。にもかかわらず、直前に見た安直なビデオに選択が左右されてしまったのである。

気分に関する調査をややくわしく述べたのは、ある重要な真実を強調しておきたいからだ。それは、あなたはいつも同じ人間ではないということである。気分が変われば(そのことを自分で気づいているはずだ)、あなたの認知メカニズムのいくつかの性能が変化する(そのことは自分でははっきり意識していない)。

複雑な判断を求められたときの気分は、あなたの問題の見方や到達する結論に影響をおよぼす。たとえ自分は気分に影響されるような人間ではないと信じていても、またたとえ自分の出した答えに自信を持って正当な理由を述べられるとしても、である。要するにあなたも私もノイズだらけなのだ。

このほかにも多くの偶発的な要素が機会ノイズを引き起こす。本来ならプロフェッショナルの判断に影響をおよぼすべきでない外的な要因の元凶になりうるのが、ストレスと疲労である。

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