『蜩ノ記』監督が継承、「黒澤監督の仕事術」 「すべてに手を抜かない」を受け継いできた

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――仕事の面で、黒澤監督から学んだことはありますか?

©2014「蜩ノ記」製作委員会

「すべてのものに手を抜かない」ということですね。ディテールを大事にするし、小道具一つであってもきちんと用意する。やはり変なものが置いてあったら俳優さんの気分も違うじゃないですか。有名な話ですが、『赤ひげ』の時に、引き出しをいつ開けてもいいように、中にはきちんと薬を置いていました。

よく黒澤さんのことを完璧主義という人がいますが、黒澤さんに言わせれば、どんな仕事だってそうだろうと。たとえば自動車を作っていて、ネジが1つ足りなかったら、それは大変なことだ。だから完璧にやるのは当り前だと。もちろん映画の中すべてを完璧にするのは難しいことですが、それでもスタッフはそこを目指して、少しでも完璧になるよう努力をしていますよね。黒澤さんご自身もそうでしたから。

手を抜かない生き方は努力次第

――ただ、今の時代に手を抜かない生き方はすごく難しいようにも思います。この映画にしてもそうですよね。

その辺は本人の努力次第ですよね。そうやろうという強い意思がなければ、そうはいかないでしょう。時間の許す限り、今よりもちょっとでもよくしようという。もちろんこの作品でも、スタッフはみんなそれを心掛けてくれました。セットの隅々まできちんと行き渡るようにね。たとえば、(役所広司ふんする戸田秋谷の)日記の中も一応全部、きちっと書いてあります。中が映ることはないのですが。

やはり僕以上に、黒澤さんから教わったことを生かそうという助監督さんたちが大勢います。俳優さんが日記をめくってみて、真っ白だったら、「それはいけないでしょ」となる。やはり気持ちですから。そういう場は、みんなでコツコツ努力すれば作れるんです。そうすれば、僕なんかでも少しは黒澤さんに近づけるかなと思う。それはもちろん遥か彼方ではありますが、そういった努力はスタッフも惜しまずやってくれた。

演じやすい場をいかにして作るか。その努力を惜しまないスタッフでしたし、そういう点では、一緒にやってきた人たちとの絆は強いと思います。それは黒澤さんという人がみんなをつないでいたのだと思います。

黒澤さんご自身がスタッフを宝物のように思い、大事にしてくれた。みんなの中にそういう思いが残っているから黒澤さんがいなくても、自分の仕事を見てもらいたいと思う。大道具でも、(1950年『羅生門』以降、ほとんどの黒澤作品についた記録の)野上照代さんなんか来ると、「野上さんこれ見てよ、こうやったんだ」と。みんな野上さんに自慢したくてしょうがない。

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