「イカゲーム」旋風をもたらしたビジネスモデル サブスク王者・ネットフリックス急成長の20年

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現に、会員数はコロナ禍の2020年には、前年度より3657万人増え、2億人を突破しました。この会費こそが、ネットフリックスの価値創造を支える原資になっているのです。

同社は2021年に会費の値上げを断行しましたが、それでも会員数が増えたのは、中毒性のある作品にユーザーが満足している表れといえます。

数字で見る価値獲得の成長ぶり

ネットフリックスの価値獲得は、数字にも明白に表れています。

(出所)Netflix Form 10-k annual report[2020]より作成。

同社が本格的に世界進出を始めた2016年12月期の売上高は、88億ドル、営業利益で3.8億ドルでしたが、2020年12月の売上高は250億ドル、営業利益で46億ドルを計上しています。わずか4年で驚くほどの成長を遂げています。

価値獲得で注目すべきは、営業利益率です。2016年度には4%しかなかったのに、2020年度には18%まで高まりました。これは、コスト削減による経営の合理化だけで説明のつくものではありません。

その理由の1つが、会費の値上げを断行したことなのです。定額制サブスクリプションで会員数を大幅に伸ばして売上を増大させ、かつ、営業利益をそれ以上に大きく成長させたといえるのです。

現在、ネットフリックスは、会員向けにゲーム配信のサービスも開始しました。その1つが、人気ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」をテーマにした作り込まれたアドベンチャーゲームです。今後は、「ネットフリックス独占配信」の作品群が次々とゲーム化される可能性が高いでしょう。

ドラマ「イカゲーム」は、まさに劇中でゲームを繰り広げています。その世界観がゲームと親和性が高いのは、偶然の一致にしてはできすぎていると思うのは筆者の思い過ごしでしょうか。

現在は、会員になっていれば追加料金を取られることはありませんが、今後は、定額制サブスクリプションにフリーミアムをかけ合わせるなど、何かしらの形で価値獲得を変える可能性は十分にありえます。

1997年にDVDレンタル業界に利益イノベーションを投じた企業は、巨大な映画産業を揺るがすまでになりました。価値獲得は、価値創造にも大きな影響を与えるのです。利益イノベーションは、業界の常識を崩し、まったく新しい価値観をもたらすことがあることを教えてくれます。

(構成:三浦たまみ)

川上 昌直 兵庫県立大学国際商経学部教授

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かわかみ まさなお / Masanao Kawakami

1974年大阪府生まれ。福島大学経済学部准教授などを経て、2012年兵庫県立大学経営学部教授、学部再編により現職。博士(経営学)。「現場で使えるビジネスモデル」を体系づけ、実際の企業で「臨床」までを行う実践派の経営学者。ビジネスの全体像を俯瞰する「ナインセルメソッド」は、規模や業種を問わずさまざまな企業で新規事業立案に用いられ、自身もアドバイザーとして関与している。専門はビジネスモデル、マネタイズ。主な著作:『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)、『ビジネスモデルのグランドデザイン』(中央経済社)。

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