「遅れたら罰金」で逆に遅刻者が増えた意外な訳 組織をまとめるには「賞罰」はさほど重要でない
モチベーション1.0は「空腹を満たしたい」「子孫を残したい」など、生命維持に必要なもの。モチベーション2.0は「給料を上げたい」「出世したい」「叱られたくない」など、報酬と処罰によるもの。最後のモチベーション3.0は「仕事が楽しい」「もっと成長したい」「素晴らしい作品を作りたい・人の役に立ちたい」など、自らの内面から湧き出てくる自発的な動機です。
モチベーションの変化は社会の成熟度によるところが大きいですが、もうひとつ見逃せないのが、仕事の質的な変化です。
100年前の仕事の多くは、工場の流れ作業のように決められた手続きの作業をこなすことでしたが、そのような単純作業は機械やコンピューターがこなすようになったため、人間の役割は複雑さを増してきました。
賞罰による動機づけは、ルーチンワークには非常に効果的ですが、クリエーティブワークに適用すると、逆効果になってしまうのです。2005年のマッキンゼー調査によると、アメリカで新たに生まれる仕事の70%はクリエーティブワークでした。それ以降も知識社会は大いに加速しています。今や、安易に賞罰を用いると生産性を下げてしまう時代になったのです。
「昇級よりも仕事のやりがい」を求める人たち
内発的な動機の根源には、「自律性」「有能感」「関係性」という心理的欲求があります。これがメンバーのやる気に火をつけ、自走する組織の根幹となる欲求です。
まず「自律性」とは、「自らの行動を、自分自身で選択したい」という気持ちのことです。自己決定の欲求ともいいます。外発的な動機づけは、外部から人の行動をコントロールしようとする施策のため、自律性を喪失させ、興味や熱意が失われる原因となってしまいます。
ただし、人間は「完全なる自由」を求めているわけではありません。
ある課題を解決するよう求められた場合でも、「実現方法に対する自由な裁量」が許されていれば、自律性を奪われた人間よりも熱心に取り組み、その活動自体を楽しむことがわかっています。やる気を生み出す鍵は、「自己決定」にあるのです。
次に「有能感」とは「置かれた環境と効果的に関わり、有能でありたい」という心理的欲求です。「内発的動機づけ」を研究した心理学者のエドワード・デシは、ある新聞社に勤める伝説的な整理部記者(リライトマン)の事例を挙げました。
彼は長く現場でリライトの仕事に携わり、熟達を重ね、その仕事に大いなるやりがいを感じていたそうです。納得いくまで仕上げたい。そのためには夜遅くの残業も苦ではない。会社はその才能を高く評価し、より高給の編集主任に抜擢しようとしましたが、彼はその昇進話を断りました。今の仕事こそ彼にとっての天職であり、一流の成果を成し遂げた達成感が生きがいになっていたからです。
有能感は、自分自身の考えで活動できる(自律性を発揮できる)とき、それが最適な難易度を持った挑戦となるときにもたらされます。有能感を持って仕事に夢中になっている状態は「フロー体験」と呼ばれ、これを創り出す環境作りが、内発的動機づけを高める施策の鍵となるのです。
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