──休ませることで、どのくらい長持ちするようになりましたか?
実は、修理ができる革靴なのかという視点が最初の頃は欠けていました。修理ができない物は、いわゆる“履きつぶす”使い方になります。張り替えができる靴を選ぶようになって、顕著に長持ちするようになりました。チャールズ皇太子が“チャールズパッチ”という手法で長く履いていることがこの世界では有名なのですが、リペアを繰り返せば20年、30年と履けるポテンシャルがあります。ですので、まずは10年を目指しています。
お気に入りは“修業の靴”
──革靴を買うときには、どういった基準で選んでいますか?
たとえば、デコボコしている革は、ツルッとしているものより伸びやすいんです。そういった柔らかくなる傾向と、色の変化のしやすさ、なめす手法でも変わってくるので、僕はその3つのポイントで素材を選びます。
一般的に、革は長く履いているほどなじんできます。ですが、なじむの種類が“伸びる”だった場合には、買ったときにはフィットしていた靴が、大きくなりすぎてしまうことがあります。ですので、少し窮屈なサイズで履き始めようとも考えます。
──靴はジャストサイズで選ぶのが当然だと思い込んでいましたが、違う考え方もあるんですね。
ブランドによっても、推奨するフィッティングに違いがあります。そういったブランドの姿勢を一緒に感じながら、しばらくきつい思いをして履くこともします。ローファーのフィッティングで1年目は地獄といったものもあるんです。
──地獄!? ちなみに、手持ちの靴で一番のお気に入りはどれですか?
J.M. WESTON(ジェイエムウエストン)の180というシグニチャーローファーです。フランスのブランドです。今日も履いてきました。靴好きの間では“修業”と呼ばれている物で、まさにその地獄の靴です(笑)。10年後にちょうどよくなるフィッティングなので、最初は足から出血する人も多いです。
――出血しても履くとは……! 大きめのサイズで買うことは許されないんですか?
日本では比較的柔軟に対応してくれますが、本国では「われわれが最適だと考えるフィッティング以外では売りません」という強いポリシーを持っているようです。そこにもグッと来るんです。僕は、ほかの人とできるだけかぶらない物を身につけたいのですが、この靴に関しては、同じ物を履いているだけで仲間意識が芽生えます。
――痛くても履きたいとまで思える魅力が、どこにあるのでしょう?
筋トレではないですけれども、つらいときはもうとんでもなくつらいのですが、それを超えたときを想像して履いたり、あとは、純粋に物として見たときにすごく魅力的で美しい。やっぱり、そこがいちばん大きいです。とにかく何とかしてこれを身につけたいんです。
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