「やたらと気を遣う」若者は、誰が作ったか? 尾木ママに聞く「激変した若者の10年」

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尾木:そう。勉強自体じゃなくて、どうやったら先生からよく思われるかっていうところへ関心が向いたのです。当時の塾の先生たちも、「お前たち、内申点を上げるには、とりあえず手を挙げろ」と。とりあえず手を挙げて、偶然当たったら「今、考え中です」って答えれば、「おぉ、意欲がある。態度がいいね」って評価されるからって。

当時、渋谷のある中学校では、生徒会役員の立候補者が91人になって、4時間かけて演説会をやったそうです。高校入試の際の内申にも反映されるので、子どもたちも必死なんですよ。そうして、人の目、評価を強烈に意識する中学生が出現していったのです。

生徒vs.生徒の関係も激変!

尾木:それから、それは先生と生徒の関係を変えただけではなくて、生徒同士の関係も変えたんですよね。たとえば、ここにゴミが落ちていたとするでしょ。「あ、汚いな」と思ってそこにあるゴミ箱に捨てる。まあ、当たり前の行為ですよね。ところが、それができなくなってきたんですよ。なんでかわかります?

尾木直樹(おぎ・なおき)
教育評論家、法政大学教職課程センター長・教授、臨床教育研究所「虹」所長
1947年滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、海城高校や公立中学校などで教師として22年間、ユニークで創造的な教育実践を展開。その後、臨床教育研究所「虹」を設立し、子どもと教育などに関する調査・研究活動に取り組む。またテレビやラジオへの出演などでも活躍、「尾木ママ」の愛称で親しまれる。

原田:なんででしょう……。

尾木:中学生の心よ。それを友達に見られたら「あ、内申点稼ぐためにやってるよ」「先生の目の前でやってるよ」って思われるかもしれないじゃない。

素直な気持ちでいいこともできなくなる。ギクシャクした関係で、非常に不健康な教室が全国に現れましたよね。

そこを経てきた大学生を教えていて、なんか今年の新入生はおかしいぞ、と思ったんですよ。微妙に、微妙になんですけど、みんながわかったような顔で聞くのです。

僕らは、学問というのは疑うことから始めろと習ったと思うんですね。先生が言うことも、いったん受け止めて、「本当かな、あの先生の言っていること」「そうじゃない見方もあるんじゃない」と疑えよ、と。それが今では、「そうね、あの先生の言うとおりだわ」なんて目がきれいなんですよ、みんな。

なんだかおかしいなと思って、学生が240~250人いる授業で聞いてみたんです。「中学校時代、先生に反抗するのは当然だと思ってた人」、「反抗なんてすべきじゃないと思っている人」って。

すると当時、「先生には反抗すべきじゃない」と思う人が、クラスの3分の1くらい、けっこう手が挙がったんですよ。詳しく聞いてみると、なんと全員が1年生だったんです。それで、クラス内でざわざわざわっと。この急な段差は、何なんですかと。

そうして考えてみたら、例の「学力観」が変わった年以降の子たちだったんですね。先生が自分の態度を見ていると思って、コントロールがかかってるんですね。

これは、思春期の反抗期をまっとうに通り抜けられていない、とも言えます。友達にも本音をしゃべれない関係というのも、こういうところから出て来たと思うんです。ここが第1弾の山場ですね。

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