五輪強行「デルタ株と脆弱検査」募る日本の大不安 ワクチン接種間に合わないまま流行期とも重なる

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6月23日、東京五輪のために来日したウガンダ選手団の1人が空港検疫をすり抜け、その後、デルタ株に感染していたことが明らかとなったが、これもPCR検査を抑制しているためだ。

厚労省が空港検疫に用いている検査は、抗原検査だ。PCR検査ではない。この方法では、多くの感染者を見落としてしまう。アメリカの疾病管理センター(CDC)が、今年1月に『MMWR』誌に発表した研究によると、発熱や咳など症状がある人を検査した場合、抗原検査はPCR検査陽性の人の80%で陽性となるが、無症状感染者の場合には41%まで低下する。

ウガンダ選手団のすり抜けは、起こるべくして起こっている。実は、選手村でのスクリーニングにも抗原検査が用いられる。多くの無症状感染者を見落としてしまったら、クラスターが発生する可能性は高まってしまう。早急な見直しが必要だ。

選手や関係者を完全に守ることなど不可能

ただ、ワクチン接種の推進やPCR検査体制の強化だけでは、安全に五輪を開催することは難しい。6月18日、尾身茂・コロナ対策分科会会長をはじめとした26人の有志が、政府と五輪組織委員会に対し、無観客試合を求めたが、これも効果は期待できない。無観客にしても、ワクチン接種が進まない現状で、国内での感染拡大は防げないからだ。選手や関係者を完全に守ることなど不可能といっていい。今夏の五輪開催は、あまりにも条件が悪すぎる。

私は五輪を数カ月、延期したほうがいいと考える。もし、1964年と同じく10月10日に開幕すれば、それまでに国民の多くがワクチンを接種しているだろうし、その時期は夏と冬の流行の狭間となる。さらに熱中症の心配もない。

選手と国民の健康を考えるなら、デルタ株の感染拡大の危険性が高まった今こそ、東京五輪の延期を本気で検討する必要がある。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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