薬や道具を使わず、新型コロナウイルス感染症患者の肺の機能を改善させるということで、にわかに注目を集めているのが、「腹臥位(ふくがい)療法」だ。
「腹臥位療法とは、患者さんをうつ伏せにさせるという救命措置の手法です。低酸素になった患者さんの血液中の酸素量を増やすことから、急性の呼吸器不全を起こした人に古くから行われていました」
「診療の手引き」でも重症者に対し「効果あり」と明記
こう話すのは、日本呼吸療法医学会理事長で大阪大学大学院医学系研究科麻酔集中治療医学教授の藤野裕士さん。昔からあったこの腹臥位療法が、今改めて新型コロナで起こる重症のARDS(急性呼吸窮迫症候群)にも効果があるとして、見直されているというわけだ。実際、「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」の第5版でも、ICU(集中治療室)に入院するか、人工呼吸器を装着するような新型コロナの重症肺炎に対して、「効果あり」と明記されている。
藤野さんのいる大阪大学医学部附属病院(大阪府吹田市)では、第4波の真っ只中だったゴールデンウィーク中、30床あるICUをすべてコロナ用に変えて対応。回復傾向のある患者を除いた、すべてのICU入院患者に腹臥位療法を実施した。
やり方は〝夕方にうつ伏せにして、朝、仰向けに戻す〟というもので、腹臥位療法を行っている時間は12~18時間ほど。これを入院直後から始めて、最短で3日間、最長で1週間続けた。腹臥位療法を行った患者は、多い日で11~12人にのぼったという。
この腹臥位療法の効果について、藤野さんは言う。
「重症の新型コロナの最後の手段は、ECMO(エクモ・体外式膜型人工肺)です。ECMOは肺に代わってガス交換を行う装置で、ダメージを受けた肺を休ませて、呼吸機能の回復を図るために用います。有効な治療ですが、重篤な合併症も起こります。ECMOを装着せず、人工呼吸器だけで回復できるというのが、腹臥位療法の効果といえるでしょう」
この効果は数字でも表れているという。
思い返すと、新型コロナの重症者への治療の切り札としてECMOが取り沙汰されたのは第1波のときだ。NPO法人日本ECMOnetの集計では当時、患者の4人に1人がECMOを装着していた。だが、第2波では8人に1人、第3波では12人に1人、第4波では13人に1人(4月19日時点)にまで減っている。
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