新型コロナのARDSに腹臥位療法が行われるようになったのは、第1波の途中から。以来、ECMOの適用となる患者には、まず腹臥位療法から試すことが推奨されている。藤野さんは、「患者数が増えるたびにICU病床の不足が問題となるが、その割にECMOが話題に上らない。これは腹臥位療法がECMO装着を防いでいるためではないか」と見ている。
しかし、なぜうつ伏せになることで重症の呼吸器不全が改善するのだろう。
「いくつかのメカニズムが提唱されていますが、特に大きいのは〝潰れた肺胞を広げ、肺が酸素を取り込む機能を高める〟というところでしょう」と藤野さん。
肺は呼吸によって入ってきた酸素を血液中に取り込み、血液が運んできた二酸化炭素を放出している臓器だ。この「換気」を行っているのが、ブドウの房のような形をした肺胞だ。肺が炎症などによってむくむと肺胞は潰れるため、この換気ができなくなる。ベッドで仰向けの状態が続けば、重力の関係で水分や血液が背中側に溜まるため、背中側の肺胞がますます潰れてしまう。
背中側の潰れた肺胞が開き、換気機能が復活
その状態を改善するのが、うつ伏せだ。おなかを下に、背中を上にすることで背中側の潰れた肺胞が開き、換気機能が復活するという。
実際、患者がうつ伏せになるだけで血中酸素飽和度が改善するケースが多いそうだ。酸素飽和度とは血液中の酸素と結合したヘモグロビンの割合をみたもので、パルスオキシメーターという装置で測る。健康な人は100%に近いが、新型コロナの場合、軽症だと96%以上、中等症Ⅰ(呼吸不全なし)だと93〜96%、中等症Ⅱ(呼吸不全あり)になると93%以下にまで落ちてしまう。
もう1つ、腹臥位療法の利点があると藤野さん。それは人工呼吸器の装着によって起こるトラブルを防止するというものだ。
「人工呼吸器は人工的に酸素を送り込む装置です。肺胞が潰れているとそこには酸素が入らず、残りの肺胞に集中的に酸素が送り込まれます。その結果、残った肺胞が過拡張を起こしてダメージを受けてしまうことがある。これを人工呼吸器関連障害といいます」
うつ伏せになると背中側の肺胞も開くため、肺全体に酸素が行き渡る。これによって人工呼吸器関連障害を防ぐことができるという。
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