出井伸之「日本はアジアの真価をわかってない」 古希にして起業、83歳元ソニーCEOが語る未来
出井:ところが、各地方には、県庁があって、小さな町役場がある。そこには、知事や町長などの首長がいて、いろいろと口を挟んでくる。東京からお金を持ってこなくては、となる。こうならないためにも、廃藩置県ではなく「廃県置藩」を断行し、同じ広域文化圏で何でも決断し、実行できるようにすればいいのです。
明治維新で廃藩置県が断行されたのは、江戸に攻めてこられないように、仲の悪い藩をくっつけたわけでしょ。それで、地方の文化もおかしくなってしまった。このことを意識し始めたきっかけは、1998年の長野(冬季)オリンピックでした。劇団四季(創設者)の浅利慶太さんが長野オリンピックを仕切ったときに、「長野県は3つの地域からなっていて、もうどうしようもない。まったく話がまとまらない」と嘆いていたからです。
昨年、ある起業家と一緒に東北を回ってきたのですが、会津でスマートシティが成功している光景を目の当たりにしました。「(旧)会津藩のくくりで展開したからよかった。県という単位だと成功しなかったね」という話をしたものです。昔の会津藩の大きさが、ちょうど住民の生活圏、文化圏とぴったり合っていました。デジタル化を推進するにあたっても、価値あるサービスに役立つものであると納得すれば、住民が家族、医療などの個人情報を進んで公開しているのです。
日本は、プライバシー、プライバシーと言いすぎましたね。その言葉を誤解し乱用しているようでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)において、世界で日本がいちばん遅れるんじゃないですか。
もはやヨーロッパは参考にならない
長田:私も神戸大学、流通科学大学と神戸の大学で教えてきた経験からすると、経済団体からは「関西は1つ」というキーワードを常時耳にします。ところが、京都、大阪、神戸の住民はこう言うのです。「関西は1つひとつ」と。
他地域の人にはわかりづらいのですが、言葉だけでなく、食文化1つとっても見ても、(旧藩地域別に)京阪神は微妙に異なる文化圏なのです。逆説的に言えば、「藩」の独自性を生かすことで、改革の速度が速まるだけでなく、差別化を促せそうです。出井さんは、スイス、フランスと10年近くヨーロッパにいたので、地域の特長を生かすという点で多くのことを学んだのではないですか。
出井:もはや、ヨーロッパは参考になりません。とくに、フランスはパリ一極集中ですからね。ドイツは地方分権国家ですが、日本と同様、テクノロジーはあってもデジタル化で失敗しました。いい製品は作るけれど、(GAFAのような)プラットフォーマーにはなれない。ドイツは一極集中ではなく地方分権ですが、それがいきすぎてバラバラに分かれてしまっている。だから、モノづくりの観点で見るというスタンスから抜け出せないのです。
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