出井伸之「日本はアジアの真価をわかってない」 古希にして起業、83歳元ソニーCEOが語る未来
長田:立体化するにしても、環境の変化に気づかないと、なかなか新しい事業に挑戦しようとしないのではないでしょうか。出井さんがソニーのCEOに就任した1999年の秋、「インターネットは隕石である」と発言し、恐竜を滅ぼした隕石のように、インターネットは既存の産業体系を滅ぼすという認識を示しました。そして現在、新型コロナウイルスにより変革を強いられています。
出井:僕は「コロナは隕石」だと言っています。この隕石により、世界が分断されたわけです。でも見方を変えれば、何か物事が変わるチャンスになるのではないかと思っています。政府は「ハンコをやめよう」と言っていますが、ハンコぐらい使っててもいいんです。それよりも、本質的なことを変えなきゃ意味がありません。
プロセスの一部であるハンコを電子印鑑に変えたところで、大してお客さんの役には立てていないのでは。そういう枝葉末節なことばかりを気にするのが日本の悪いところです。コロナという隕石が飛んできて、日本国内でさえ移動が制限されました。そこで、僕は「日本は二重戦略を展開すべきじゃないか」と提言しています。
安い労働力だったアジアが消費地になっている
長田:「二重戦略」とは何を意味しているのですか。
出井:コロナにより、東京と地方が分断されましたが、地方には地方のいいところがあるわけです。同じように、世界も分断された中で、例えば、健康、長寿、安心、安全といった日本のよさを見直し、磨くべきではないかというのが国内における戦略。それと並行して海外戦略としては、これまでの欧米志向から、世界でいちばん伸びている中国、インド、インドネシア、ベトナムなどのアジア諸国へ目を転じなくてはなりません。かつては、安い労働力を確保できるから、アジアに工場つくろうとか言っていましたが、今は、その地域の企業や消費者が、お客さんになっているわけです。
対して、ヨーロッパ諸国は衰えていくだけです。イスラム圏も伸びるでしょうが、アジアに比べればマーケットは小さい。さらに、アジア諸国の企業、消費者にとって日本は憧れの国。アジアの「銀座通り4丁目」なのです。日本人は、そのよさを十分理解していないのではないでしょうか。
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