出井伸之「日本はアジアの真価をわかってない」 古希にして起業、83歳元ソニーCEOが語る未来
長田:いまだにソニーの話をして恐縮ですが、同社は2021年3月期に過去最高益を更新する見通しです。ちなみに、現在、ソニーのCEOを務める吉田憲一郎さんは、 出井社長時代に社長室長を務め、出井さんの経営を傍らで見てこられたわけです。ソニーについてコメントしないということですが、現在のソニーのビジネスモデルを見ていると、出井さんが最近、強調されている「立体化」と一致するところがありますね。
出井:ソニーと結び付けているわけではなく、日本の中小企業にもその戦略を提唱しています。
そこで、「XYZとABC」の概念に触れておきたいと思います。現在の延長線上で展開していくのが「XYZ」で、変革が「ABC」。企業では、いつも両者がせめぎ合っています。すると、ほとんどの場合、「XYZ」から変革が起こり「ABC」が生まれる。そしてまた、「ABC」が成熟化し「XYZ」になれば、そこから、また、新たな「ABC」が発生するというスパイラルが生じるわけです。
これを具体的に表現したのが「立体化」です。この概念を中小企業の経営者や後継者にアドバイスしています。親父さんが持っている庭があったら、そこに新しい家を建てればいい。お客さんは、庭のある場所を知っているから、新しい家を見てみようと、そこへ集まってくる。お店の場合だと、別に新しくお客さんを取らなくても、親父さんが取り引きしていたお客さんに対して、新しい製品やサービスを提供すればいいのです。
長田:親とまったく違う事業を展開する場合でも、これまで培ってきた経営資源を承継するのにとどまらず、応用しないのはもったいないですね。老舗が持つ暖簾(のれん)の効用にも通じます。
芯を残しながらそれをどう新しく使っていくか
出井:この前、(ようかんで知られる)虎屋の黒川光晴(社長)さんとお会いしたとき、「きちんと芯は残しながら、それをどう新しく使っていくか、伝えていくか、という意識を持っていなくてはいけない」とおっしゃっていました。「XYZ」は巻紙みたいになっているんです。ABCへ大転換するときも、重なるところがあるわけです。だから何を残して何を新しくするかというのは、後継者がやる重要な仕事ですね。親のやることをそのまま継いでやっているだけでは先細りします。
日本は100年企業、200年企業が世界でいちばん多い国です。伝統のすばらしさだけではなく、一代に1つイノベーションを実現する、自分のファミリーから1人しか入れない、など、長寿を可能にするためにいろいろな工夫をしているのです。だからこそ、中国などは、日本の長く続いる企業、老舗に憧れており、その工夫に大変興味を持っています。
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