出井伸之「日本はアジアの真価をわかってない」 古希にして起業、83歳元ソニーCEOが語る未来

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出井:日本は高い技術力からすれば、プラットフォーマーになれない理由はありませんが、問題は一極集中の原因にもなっている縦割り行政の省庁です。コンピューターは経済産業省、総務省がインターネット、著作権は文化庁といった具合に分かれてしまっています。デジタル庁ができましたが、それぞれの省庁の縄張り、力関係は現存しています。とにかく、国が企業の邪魔をしなければいいんですよ。

長田:出井さんは「技術と創造性の融合」をソニー時代から唱えていますが、ヨーロッパに見習うところなしと。では、中国との競争が激化すれども、「技術と創造性の融合」で一日の長があるアメリカから学ぶ点はありますか。

出井:これまでも、「アメリカとヨーロッパを見てうらやましがるのはやめよう」と言ってきました。まず、アメリカと日本を比較してはいけない。そもそも、国土の規模が違うのですから。そこで、あらためて考えなくてはならないのが、日本が誇れるものは何なのかということです。

いろいろな文化や技術が、ファーイーストの日本にたどり着いたと、地政学的観点からも考えられます。その結果生じた多様性は誇れる特長の1つです。日本的だと思われている「七福神」1つとってみても、船に乗っている神様のうち、日本の神様は恵比寿様だけです。ほかは、インド、中国の神様。まさに呉越同舟です。この特長を生かして、アジアと付き合っていかなくてはなりません。

(撮影:尾形 文繁)

アジアを上から目線で見てはいけない

長田:日本がアジア軽視になってしまった根本的原因について歴史的考察をしていますね。

出井:明治維新、文明開化を機に「脱亜入欧」となり、アジアを振って、欧米に近づいたわけです。だから、アジアからは、「日本は俺たちを見捨てたんだ」というふうに見られているのです。そこで、もう一度逆転して、アジアを見るようにしなきゃいけない。そうすると当然お金は入ってきますよ。アジアが必要とするものは全部日本にあるのですから。

僕は世界史の本を買って驚いたのですが、日本について書かれてない。つまり、世界史は日本を除いた世界史なんです。日本史があるのだから、アジアの歴史に関する本もたくさんあるだろうと思って、本屋さんに行って検索してみました。ところが、日本から見たアジア史について書いてある本ばかり。アジア自体を扱った本が見当たらなかった。この前、このことを詳しく研究しておられる先生に来ていただき、お話を聞きました。要は、日本の近代化とは、すなわち、欧州化であるとのこと。

先ほど、アジアで稼ごう、と言ったのは、例えば、こういうことです。低賃金のアジア諸国に工場進出し、そこで安く作って、欧米で売って儲けようというのではなく、アジアと一緒に考え、稼ごうという意識に変えていかなくてはならないという意味なのです。アジアを上から目線で見ていてはいけません。

長田 貴仁 経営学者、経営評論家

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おさだ たかひと / Takahito Osada

経営学者(神戸大学博士)、ジャーナリスト、経営評論家、岡山商科大学大学客員教授。同志社大学卒業後、プレジデント社入社。早稲田大学大学院を経て神戸大学で博士(経営学)を取得。ニューヨーク駐在記者、ビジネス誌『プレジデント』副編集長・主任編集委員、神戸大学大学院経営学研究科准教授、岡山商科大学教授(経営学部長)、流通科学大学特任教授、事業構想大学院大学客員教授などを経て現職。日本大学大学院、明治学院大学大学院、多摩大学大学院などのMBAでも社会人を教えた。神戸大学MBA「加護野忠男論文賞」審査委員。

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