“If you build it, he will come”
「それを造れば、彼は来る」
「それ」とはなんなのか、「彼」とは誰なのか、そしてこの声はいったいどこから聞こえてくるのか……、その謎の声に導かれた主人公は、生活の糧ともいうべきとうもろこし畑をつぶし、突然、そこに野球場を造り始める。やがて、完成した野球場に、まるで迷い込んできたかのように生涯を閉じたはずの伝説の名選手が現れると、その日を境に次々と……、というストーリーをご存じだろうか?
日本では1990年に公開された、ケヴィン・コスナー主演の映画『フィールド・オブ・ドリームス』である。
作品は“大人のファンタジー”と評され、各方面で高い評価を受けた。ボクも個人的に“マイ・フェイバリット”のひとつに挙げたい1本だ。
で、「SASUKE」である。今回、「SASUKE」が記念すべき第30回を迎えるにあたり、誕生当時のエピソードなどを書いてもらえないだろうか、と現在のプロデューサーから依頼があった。
現場を離れてはや10年あまり、懐かしさに背中を押され、勢いで引き受けたはよいが、はて、いったい何を書けばよいものか。と、そこでパッと思い浮かんだのが、『フィールド・オブ・ドリームス』だった。もし、ボクが「『SASUKE』とは?」と問われたら、なんと答えるだろうか? きっとこうだろう。「『SASUKE』は、『フィールド・オブ・ドリームス』だ。それを造ったら、彼らが来た」と。
あの物語の舞台は、アメリカ・アイオワ州の田舎町だった。そこでとうもろこし畑をつぶして野球場を造ったら、はるか昔にメジャーリーグで活躍した往年の名選手たちがやって来た。
転じて、こちらの舞台は日本だ。最寄り駅は小田急線の鶴川駅。番組スタッフが省略して「ヤマ」と呼ぶTBSの緑山スタジオに、かつてない巨大な18の関門を造ったら、そこに彼らはやって来た。鉄工所やガソリンスタンドのアルバイトが、はたまた漁師や消防士の若者たちが……、それを造らなければ、きっと生涯、出会うこともなかったはずの男たちが、日本全国から集まったのである。
『フィールド・オブ・ドリームス』のラストシーン、野球場へと連なる車列の延々と続くヘッドライトはとても印象的なシーンだったが、「SASUKE」を目指した名もなきアスリートたちの延々と続く足跡は、それにも増して印象的だった。ある意味、それは想像もしない光景だった。