田中将大とノムさん。最強の師弟ストーリー TBSプロデューサーが見た、2人の天才
まだピンストライプのユニフォームに袖を通す前の2013年シーズンオフ。神宮外苑の草野球場で、田中将大は見慣れない野球着に身を包んでいた。
「そのユニフォーム、カッコいいじゃないですか」
事の発端は2013年シーズン中、食事の場で気軽に発したその一言だった。
「将大の分も作ってあげようか? でも、作ったら最後、オフに草野球をしに来ないとダメだよ」
TBSのスポーツ局でプロデューサー、演出担当などとして14年間働く横山英士は、自身が長らく制作にかかわってきたスポーツ番組「S☆1」で作ったユニフォームの写真を見せながら、12歳下の友人に軽い気持ちで語りかけた。
「いいですよ。行きますよ」
田中が、少しうれしそうに答える。親しい間柄にある男同士にとって、食事の席でよく交わされるたぐいの会話である。
「自分で『やる』といったことはやるんです」
楽天でプロ入り7年目を迎えたこの年、田中は球界で空前絶後の活躍を見せた。開幕から世界記録の24連勝を飾り、無敗でペナントレースを終える。日本シリーズでは第6戦に先発した翌日、第7戦では最終回のマウンドに上がり、伝説の胴上げ投手になった。そしてシーズンオフにはポスティングシステムを使い、世界一の名門、ニューヨーク・ヤンキースに7年総額161億円の超巨大契約で移籍。誰もシナリオを書けないような、激動の1年を過ごした。
シーズン中に活躍すればするほど、プロ野球選手は忙しいオフを送るものだ。取材やテレビ番組の出演依頼が殺到し、各種の表彰式も行われる。かつ、オフシーズンという名に反し、選手は決して身を休めていられるわけではない。むしろ逆で、試合のない期間にどんなトレーニングを積むかが、翌年のパフォーマンスに大きく影響してくる。
さらにこの年、田中はメジャーへの移籍話を進めていた。システムが根底から変えられたポスティング騒動の渦中にあり、日米の注目を集めていた。
だから横山は、まさか軽い気持ちの約束が実現するとは思っていなかった。彼自身は大晦日の特番「KYOKUGEN」に向け、慌ただしい日々を過ごしていた。
そんな冬のある日、横山は田中から連絡を受けた。
「来週、○日の午前中、8時から数時間なら参加できます!」
横山が草野球当日、「本当に来るとは思わなかったよ!」と言うと、田中は「自分で『やる』と言ったことはやるんです」と返してきた。そうして2013年シーズンオフの某日、ストーブリーグの主役は神宮外苑で「S☆1」のMCを務める爆笑問題の田中裕二や横山、番組スタッフとともに軟式ボールで草野球に興じた。
「いろいろと忙しいのだから、ゆっくり寝ていればいいじゃないですか。時間を割いて『一緒にやろう』と言ってくれるのは、将大っぽいなと思いました。彼のすごく好きなところですね」
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