野村監督の教え
「野村(克也)監督にはよく、『脇役として自分の仕事を考えろ』と言われました。いろんな勉強をさせてもらったことが、今、生きているなと思います」
そう語るのは、今季途中の7月にDeNAから西武に移籍した渡辺直人だ。2007年に楽天に入団してから3球団を渡り歩く渡辺が、名脇役として評価を得てきた裏には野村の教えがある。
プロ野球選手における脇役の役割について、渡辺が説明する。
「バッティングでは中軸(3〜5番)の前の打順で何をできるか。守りではしっかり準備して、備えることですね。そういった基本って、ずっと試合に出ていると忘れがちになるんですよ」
渡辺が主に任されてきた打順は1、2番だ。走者なしの場面ではどんな形であろうと出塁し、ランナーのいる打席では送りバント、右にゴロを打っての進塁打などで走者を先の塁に進める。守ってはショートやセカンド、サードで、ミスなくゴロをさばき続ける。勝負を決める役割ではないが、チャンスメイクや野手の堅実なプレーなくしてチームの勝利もありえない。
一方、野村が「脇役になれ」と説くのは、組織のために献身的に働けという意味だ。おのおのがチームを最優先に考えれば、勝利に最短距離で近づける。野村はそうした考えについて、自著『弱者の兵法』で詳しく語っている。
「『チームのためにヒットやホームランを打つ』というのと『ヒットやホームランを打つことがチームのためになる』というのは明らかに違う。前者は自分の記録よりチームのことを第一に考えているのに対し、後者はチームのことより自分の記録を優先しているといっていい。そしてその違いは、おのずと打席やマウンドに向かうときの気持ちにも影響を与えるものだ。
(中略)極端にいえば、フォアボールや犠打を有効に使い、足をからめるなどすれば、ホームランなど出なくても、それどころかヒットすら一本も出なくても点はとれる。だからこそ、選手個々が『チームのために自分は何ができるのか』を考え、実行することが何よりも大切である」
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