ノムさんの教えを守り、“名脇役”になった男 西武・渡辺直人はなぜ重宝がられるのか?

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渡辺の存在価値が評価されるのは、数字に表れる面ばかりではない。ベンチで声を出し、守備につけば二遊間でコンビを組む若手にアドバイスを送るなど、リーダーシップを発揮している。

「性格? いや、そうじゃないですね。何もしないのがいちばん楽ですよ。でも、勝つためには必要だからやっています」

8月に入り、渡辺の打率は急降下した。29日時点の打率は1割9分8厘。それでも2番で起用され続けているのは、チームへの貢献度が高いからだろう。

渡辺が“名脇役”ぶりを発揮したのは、8月17日の楽天戦だ。球団創設9年目の初優勝へ突き進む相手に対し、是が非でも負けられない一戦だった。9回表の2死から本塁打で1点差を追いつかれ、嫌な流れで迎えた裏の攻撃。先頭打者の渡辺は「どんな形でもいいから、絶対に塁に出ると自分に言い聞かせました」。マウンドの小山伸一郎に1ボール、2ストライクと追い込まれ、4球目がボールとなる。「2ボール、2ストライクになり、相手はコントロールのいいピッチャーではないから、粘ればいけるとフォアボール狙いに切り替えました」。ファウルを挟み、2球続けてボールを選び、フォアボールで出塁する。1死1塁から浅村栄斗の2塁打でホームを突いた渡辺は間一髪でアウトになったものの、その後の攻撃でサヨナラ勝ちをもぎ取った。

サラッとやってみせる

いぶし銀の働きで勝利に貢献したこの日の数日前、渡辺はこんな話をしていた。

「最近はヒットになっていないけど、悪い内容ではありません。しっかりバットを振れているし、いい当たりがアウトになることも絶対にあります。何か変えなければいけないこともないですね。僕の仕事は打つだけではありません。もちろん、打つのも仕事ですけどね。フォアボールを選ぶところは選ぶとか、自分の仕事を続けていくだけです」

筆者にとって渡辺が取材対象となったのは西武移籍後で、話を聞くようになってから日が浅い。それでも、なぜ楽天やDeNAで周囲から愛され、評価されるのか気になっていた。そこで、あえて嫌な話を聞いてみた。DeNAでチャンスに恵まれなかった今季序盤、なぜ自分に厳しくできたのか、と。

「そこを話すんですか」と苦笑した渡辺だが、言葉を紡いでくれた。

「普通のことを普通にやるだけですよ。1軍にいるからとか、2軍にいるからとかで、自分のスタイルは変わらない。2軍で試合に出られないと、モチベーション的には厳しいですよ。でも、いつも目標として、いつかチームの力になれるときが来るから、そのためにしっかり準備しておかなければと思っていました。たまたまトレードで、それが生きてきましたね。自分がやっているのは普通のこと。どんな状況でも変わらず、目の前の状況のために練習、試合をやっていく。よくても、悪くてもベストを尽くす。それは変わらないというか、変えることができない。いつでも全力でやるし、勝ちたいし。それは変わらないですね」

エースや4番という主役のように、渡辺は花道を歩く存在ではない。しかし、その名脇役ぶりは、チームが描くドラマにグッと深みを与えている。

普通のことを、普通に――。

意外と簡単なことではないが、サラッとやってみせるのが名脇役なのだろう。
 

中島 大輔 スポーツライター

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なかじま だいすけ / Daisuke Nakajima

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックに移籍した中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた「野球消滅」。「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。NewsPicksのスポーツ記事を担当。文春野球で西武の監督代行を務める。

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