ノムさんの教えを守り、“名脇役”になった男

西武・渡辺直人はなぜ重宝がられるのか?

社会人の三菱ふそう川崎で巧打のショートとして鳴らした右打者の渡辺は、2006年のインターコンチネンタルカップで日本代表に選ばれるなど、アマチュア球界の実力者として知られていた。同年の大学生・社会人ドラフト5巡目で楽天に指名され、野村の門下生となる。

当初はアッパースイングになる癖があったものの、バットを水平に振るよう野村に指摘され、センターから逆方向中心のバッティングを心掛けるようになった。渡辺の打撃スタイルは1番や2番のチャンスメーカーとしてはまり、入団から3年連続でチームトップの盗塁数(25、34、26)を記録するなど、欠かせない戦力になった。

だが2010年シーズン終了後の12月、突然の金銭トレードを通告される。8日前に翌年の契約更改を済ませたばかりで、球界では異例の出来事だった。同じ内野手の松井稼頭央、岩村明憲(現ヤクルト)をメジャーリーグから獲得し、出場機会が減少するための措置とも噂され、主力選手やコーチが声高にトレード反対を訴えた。自己犠牲の精神でチームの勝利を最優先する渡辺は、チームメートにそれほど愛される存在だった。

「野球に飢えています」

DeNAではショートからセカンドにコンバートされた1年目の2011年こそ126試合に出場したものの、翌年はケガもあり、出場機会が70試合に減少した。今年は中畑清監督の戦力構想とマッチせず、4月22日以降は2軍暮らしが続く。若手の出場機会が優先され、難しい日々を送った。

置かれた状況を考えれば、並の選手なら心が折れていてもおかしくない。渡辺の年齢は32歳で、多くのプロ野球選手にとっては引退が近づく頃だ。だが、ユニフォームを脱ぐつもりなど毛頭なかった。

「年齢もいっているので、何もやらなかったら何もないまま終わってしまう。やるべきことを見失わないように、自分に厳しく練習していました。その気持ちがたまたま、トレードで生きてきましたね」

7月10日、長田秀一郎とのトレードで西武に入団した渡辺は、埼玉県所沢市の会見場で目を輝かせながら話した。

「野球に飢えています。西武は優勝して日本一になれるチームなので、力になりたい」

シーズン途中に移籍した渡辺は、合流直後にインパクトを残すことを意識していた。その意気込みどおり、7月末まで打率3割近くとヒットを積み重ねていく。打順はつなぎ役の2番、守ってはセカンド、ショート、サードをこなし、瞬く間にチームに欠かせない存在となった。

「チームが変わっても、今までやってきたことをブレずにやるだけです。いきなりホームランを打ったり、自分の特徴じゃないプレーをできるわけではないので、今までやってきたことを継続するだけですね」

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