今日は若い方が多いですねと言われたら、研修の先生ですとおっしゃっていただいて。わたしは勉強してるふりをしながら、すべての所作を観察していました。先生が何を言うか、それに対して患者さんがどう受け答えをするのか。何を手に持っているのか、家の造りとか、全部書き込んだりもできたんですが、それが一番理想の取材でしたね。
――今回の取材はどうだったんですか。
今回はやはり1対1のインタビューが多かったですね。職場を見せてもらうこともありましたし、できるだけ住環境とかを見せてもらったりしながらお話を聞いたりしました。本当はメモを取りたかったんですが、まずは人間として信頼してもらわないといけない。
人に言いづらいことも話してもらわなければならないので。こいつにならば話してもいいかなと思ってもらわなければならない。だからメモはろくに取ることはできないですよね。ただレコーダーを回させていただいて、外に出すものではないですからということで、話を聞かせていただきました。
驚いたのは、過去に罪を犯した人に「事件について聞いてもいいですか」と聞くと、案外抵抗もなく自分の犯行を立て板に水のごとくしゃべるんですよね。なんでこんなに話がうまいんだろうと驚くほどに、みんな時系列を追いながら、つらつらと話されるんです。
なぜかと思ったらそれはやはり、たび重なる事情聴取と取り調べ。警察、検察、裁判といく中でストーリーが固まっていったんでしょうね。何月何日の何時何分です、みたいな感じで。
語ってくれた人たちに作らせてもらった
――話しているうちに、その話に磨きがかかっていくという。
そうなんでしょうね。それに付随して、人に話を聞いてほしいのかなというふうにも思うんです。それがつらい話であってもですよ。今の職場での苦労とか、家庭環境の話を聞いたときも、それはちょっと、とは言わないんですよね。案外、人って、なんか自分の後ろ暗いことでも、耳を傾けられれば、言っちゃいたいものなのかもしれないなと思うぐらい、みんないろんなことを話してくれた気がします。
――そうやって話をまとめていくというわけですね。
取材のときはもうコミュニケーションを取ることに必死なんですけど、後からゆっくりそれを一言一句、全部書き起こすんですが、それが面白いんですよ。言葉の間とか、どこで詰まるのかというところに人間性が出てきて、このまま本にできるんじゃないかと思うくらいの内容です。
だから佐木さんも、そういうことを繰り返して、こんな面白いことはないと思って、ああいう本を残されたんじゃないかなと。方言がどこで混じるか、それも含めて書き起こしていくと、非常に人間というものが立体的に見えてくる。その中で自分が面白い言葉を自分の中に染み込ませていってからシナリオを書いていくと、どこかのタイミングでそのインプットされた言葉がセリフとして、自然に出てきたりするんですよ。だから今回は本当に、自分の知りえない経験を語ってくれた人たちに作らせてもらった気がします。
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