これだと思う原案小説に出会えた
――今回、原作ものに挑むのは、長編では初ということになりますね。
映画のシナリオを書こうと思い始めた20代前半のときから、何か面白い小説に出会えれば、それを原案にして映画を作りたいという意識はありました。しかし、そのテーマに自分自身が深いところで共鳴しない限りはなかなか手が出ないな、という感じもありました。
自分が監督するなら自分が話を作るところから始めないと、わたしには監督なんか務まらないんです。自分から発信して作り上げたオリジナルのストーリーや登場人物であれば、ある意味、枝葉末節に至るまで、自分がわかっているわけだから、誰から何を聞かれようが責任を取ることができるだろうと。だから映画の監督だけしてくれ、脚本は書かなくていいから、と言われたら多分引き受けないと思います。
――そんな中、佐木隆三さんの「身分帳」を映画化することになったのはなぜでしょうか。
これだと思う原案小説に出会えたということですね。誰も今、この面白い小説に気づいてないぞ。自分しかやろうとしている人はいないぞと思い、やってみようというところから始まりました。もともと佐木さんの文体が好きだったので、1行目からのめり込みました。
この小説は、凶悪犯が犯罪に至るまでのルポルタージュではなく、過去に犯罪に手を染めた人間が、社会生活をやり直すというだけの小さなテーマ。つまりそれは、多くの人が関心を寄せてないことなんですよね。何のドラマ性もないから。
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