映画「すばらしき世界」にみる社会復帰の難しさ

西川美和監督が小説「身分帳」に共鳴した理由

2月11日に公開の西川美和監督の映画『すばらしき世界』。人生の大半を刑務所で過ごした主人公・三上正夫(右)。刑期を終え、社会復帰を目指して活動を始めるが……。 ©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
『ディア・ドクター』『永い言い訳』など、これまで一貫して自身のオリジナル脚本に基づく作品を発表してきた西川美和監督。そんな監督が、直木賞作家・佐木隆三のノンフィクション小説「身分帳」にほれ込み、長編映画としては初の原作ものに挑んだ『すばらしき世界』が2月11日に全国公開された。
1990年に刊行された小説の時代設定を現代に置き換え、実在の人物をモデルとした主人公・三上の数奇な人生を通して、人間のいとおしさや痛々しさ、社会の光と影をあぶり出す問題作となる。主演の役所広司をはじめ、共演に仲野太賀、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美ら実力派のキャスト陣が集結した。今回は長編第6作となる本作を完成させた西川監督に話を聞いた。

これだと思う原案小説に出会えた

――今回、原作ものに挑むのは、長編では初ということになりますね。

映画のシナリオを書こうと思い始めた20代前半のときから、何か面白い小説に出会えれば、それを原案にして映画を作りたいという意識はありました。しかし、そのテーマに自分自身が深いところで共鳴しない限りはなかなか手が出ないな、という感じもありました。

自分が監督するなら自分が話を作るところから始めないと、わたしには監督なんか務まらないんです。自分から発信して作り上げたオリジナルのストーリーや登場人物であれば、ある意味、枝葉末節に至るまで、自分がわかっているわけだから、誰から何を聞かれようが責任を取ることができるだろうと。だから映画の監督だけしてくれ、脚本は書かなくていいから、と言われたら多分引き受けないと思います。

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――そんな中、佐木隆三さんの「身分帳」を映画化することになったのはなぜでしょうか。

これだと思う原案小説に出会えたということですね。誰も今、この面白い小説に気づいてないぞ。自分しかやろうとしている人はいないぞと思い、やってみようというところから始まりました。もともと佐木さんの文体が好きだったので、1行目からのめり込みました。

この小説は、凶悪犯が犯罪に至るまでのルポルタージュではなく、過去に犯罪に手を染めた人間が、社会生活をやり直すというだけの小さなテーマ。つまりそれは、多くの人が関心を寄せてないことなんですよね。何のドラマ性もないから。

次ページ考えたこともないようなテーマだった
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