映画「すばらしき世界」にみる社会復帰の難しさ 西川美和監督が小説「身分帳」に共鳴した理由

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それってもう小説が書かれた時代とは大きく違うなと思ったんです。当時はバブルの最盛期で、ヤクザの世界も裏に表に暗躍して元気も良かったんですよ。でも今となっては人の生きていける業界ではなく、残った組員も高齢化して、やり直す方法もない。実際どういう選択をしながら生きているんだろう、というところをじかに人に会って取材したり、本を読んだり、専門家の方に話を聞いたりしたところで、見えてきたという感じですね。

ちゃんと認めてくれる人がいればそこにいる

――東海テレビのドキュメンタリー「ヤクザと憲法」でも、そのあたりの現実が描かれていました。

とても参考になりました。カメラの前に立つ現役の構成員は、生まれ持っての極悪人という風情でもなく、ほかに行き場所がない人たちの居場所のようでもありました。

周囲の人々の支えあって、三上は徐々に社会復帰の希望をみつけていく ©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

取材をしていると、ヤクザにかかわらず、不良少年だった若い人たちに話を聞いてみても、複雑な家庭事情を想像させる人は多かった。家族関係で何かしらの傷を負っていたり、暴力や放置されることが当たり前にあったり、そういう中で学校や表のコミュニティからも外れた行動を取っていたときに、唯一お前ここにいていいよって言ってくれたところがたまたまそういう場所だったという。経営者との信頼関係が築けていれば、普通以上に辛抱強く、生真面目に働ける人たちもいるというんですよね。

若い人だけじゃなくて私たちもそうじゃないですか。ちゃんと認めてくれる人がいればそこにいますよ。そういうことで、わたしもあまり考えたことがないようなことや、出会ったこともないような人たちに直接話を聞けたのはとても貴重な経験でした。最初はただ単に主人公が七転八倒するのが面白いと思って読んでいたんですが、案外奥深いというか、社会的なテーマをはらんだ話だなというふうに思ってきましたね。

――そうやってリサーチ、取材を重ねていき、映画に活かしていくというわけですね。

本当は1対1のインタビューじゃないほうがいいんですよね。長く付き合っていけば、それでもいいかもしれないですが、1回で1時間半会ったところで、人間の本音なんか出てくるわけないと思っていますし。それよりも本当は潜入が一番いいんですよ。

何かに紛れてその人を観察していれば、実態がつかみやすくなるんですが、なかなかそれができる取材とできない取材がありますから。

『ディア・ドクター』のときは、へき地に取材に行きました。そこのお医者さんが訪問医療をするので、同行させてもらったんです。「あなたたちが何者であるのかを、90、100のおばあちゃん、おじいちゃんに説明するのは難しい。いいから黙って白衣を着て、ついてきてください」と言われて。

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