現代自動車が米ロボット企業を買収したワケ ボストンダイナミクス社の技術で将来へ布石

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ロボット市場の中でも、現代自動車はとくにどの事業を集中させるのか。2020年444億ドル規模の市場の72.3%が「製造用ロボット」と「物流用ロボット」で占めていると見ている。一方で、サービス用ロボットは27.7%程度と見ているが、これが2025年には46%へと拡大すると現代自動車は予測する。「現代自動車は最終的にサービス会社へ変貌する」とする同グループの方向性と一致する予想だ。

一方で、中長期的な計画には不安がつきものだ。その最たるものが、ボストンダイナミクスが保有する技術がきちんと商用化できるのかどうかという問題だ。同社自慢の技術が、どのような経済的価値を創出できるのか。同社の2019年の売上高は30億ウォン(約2億8000万円)、当期純損失は1121億ウォン(約106億4500万円)。2020年第3四半期(7~9月)末では、同91億ウォン(約8億6400万円)、同650億ウォン(約61億7300万円)となっている。

ロボット自体のパフォーマンスは驚くべきものがあるが、そのロボットが動作可能な期間はとても短く、値段も高い。そのため、商用化には遠いとの評価がある。これに加えて、同社がグーグルとソフトバンクの投資を経てきた会社という点で、同社が本当に金を稼げるのか疑問を持つ人もいる。

売上高ゼロ、ロボット技術商用化は可能か

ところが、このような見方について、専門家や利害関係者らは同意しない。韓国・キウム証券のキム・ミンソン研究員は「現代自動車はグーグルやソフトバンクと比べ、事業において製造・物流の比重が大きい。ボストンダイナミクスの活用度は、2社と比べて高いだろう」と見ている。

特にボストンダイナミクスは、商用化に向けた段階にすでに入っている。同社のパトリック・フェリー事業開発担当副社長は、アメリカのIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)が発行する「IEEEスペクトラム」とのインタビューで、「2018年以降、われわれは商業的な組織へ転換した」と述べ、商用化への意志を明確に打ち出している。

ボストンダイナミクスが最近開発しているロボットを見ると、そのトレンドがはっきりとしてきた。人間に似せたヒューマノイド型ロボット「アトラス」(Atlas)とは違い、同社の「ピック」(Pic)と「ハンドル」(Handle)が持つ機能はその方向性が明確だ。2019年に登場したピックは、モノを持ち上げ動かすことができる物流用ロボットであり、ハンドルもまた車輪がついており直接モノを持ち上げて目的地まで自律的に移動する機能に特化している。ボストンダイナミクスがそれまで開発した技術力を実際の産業現場に適用するようになったのだという評価だ。

商用化を狙うボストンダイナミクスからすれば、世界でも有力な完成車メーカーである現代自動車の能力は絶対的に必要だ。同グループは完成車業界の中でも、大量生産と費用効率の面でトップクラスの能力を持つ。前出のフェリー副社長は「製造、建設、物流などわれわれが目標とする多くの産業を理解しているパートナーと手を組めば、われわれの製品を向上させられる」と述べた。これは、ロボット量産にとっては、現代自動車の製造力がとても有益だということだ。

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