京大教授の看護師が挑む「がん緩和ケアの究極」 心の領域にも踏み込んで、痛みを和らげる

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次のステップは効果の検証です。シートを用いた看護師主導型のスピリチュアルケアを実施しました。その有効性を見ていくと、効果が多少なりともあった。そこで、2年ぐらい前から約200人の患者さんを目標に緩和ケア病棟で調査を続けているところです。

ただ、緩和ケア病棟に入院される人たちは、状態がいっそう悪くなってから病棟に来る。ですから、研究への協力依頼に「いいよ」って言ってくださっても、2週間後には答えられる方が非常に少ない。それ以前に亡くなってしまう、もしくは意識の低下が起こるんです。

――生と死の分岐点での、ぎりぎりの調査ですね。

今はN数(標本数)が少なくても、AI(人工知能)を使った機械学習などで分析ができる方法論が少しずつ開発されています。それらの方法を取り入れ、シートを使ったケアのプログラム作成を検討中です。そこから、緩和ケアのモデルが構築できないか、と。

必要以上のケアはしなくていい

スピリチュアルペインがごく自然な人の営みとするならば、必要以上のケアはしなくていい。スピリチュアルペインにはある程度、患者さん自身で解決できることもある。そうした点は既に逝った人たちの遺産ですから、ちゃんと学び、そのうえで「こんなことをしてみましょうか」「こんなふうにしたら楽ですよ」といった提案を患者さんにすべきだと思うんです。

がんサバイバーと語り合う田村恵子氏(写真:ともいき京都提供)

入院していたある膵臓がんの患者さんの話です。「積極的な治療は中止して緩和ケアへ切り替えませんか」と医師から提案され、受け入れられずにいました。

お話を伺ってみると、受験を控えている娘が大学生になったら、思い出の場所に一緒に旅行に出かけようと、それを心の支えにされていました。そして娘を遺して逝くことへの心残りが、 スピリチュアルペインを引き起こしていると考えられました。

治療を続けると大切な家族と過ごす残された時間に、副作用で弱り動けなくなることもある。そこで「娘さんとの旅行を優先させるなら、積極的な治療ではなく、体調を整える道もありますよ」とお声掛けしました。心残りに注目してケアを実践したんです。患者さんは亡くなられる前に、積極的な治療の中止をご自身で決断し、娘さんとの旅行を実現されました。

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