末期がん妻に夫が学んだ「後悔しない看取り方」 50代夫婦、2人暮らしの涙と笑いの奮闘記後編
完治を信じて治験へ
「大阪国際がんセンター」の主治医の説明では、妻の肝臓に複数の転移があるため手術はできないという。
薬は、分子標的薬とオプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬の2種類がある。分子標的薬は6割の人に効くが効力が長続きしない。免疫の薬は効く割合が低いが、一度効くと長く持続する。
もうひとつの選択肢は、ふたつの薬を併用する臨床試験(治験)への参加だ。即効性と持続性の両立が期待できるという。完治の確率を少しでも高めるため、僕らは迷わず治験を選んだ。
治験の事前検査中だった2018年3月4日未明、「ミツル、ミツル!」と僕を呼ぶ、くぐもった悲鳴が聞こえてきた。あわててリビングに行くと、「痛い、痛い」とうなって倒れている。「救急車呼ぶわ」「その前にがんセンターに電話して。それから、靴と診察券と下着を用意して」。激痛に襲われている妻のほうが冷静だった。
搬送の翌日、痛みが落ち着いた妻は「寝室から叫んでも気づかないから、台所まではって出た。気づいてもらえないのがいちばんしんどかった」と口をとがらせた。
「ゴメン」と謝ると、ニヤっと笑って「1日絶食やて。昨日パフェを食べといてよかった。ひな祭りのちらしずし、つくりたかったなあ。干しシイタケを水にもどしておいたのになあ……」と食べ物のことばかりしゃべりつづけた。
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