
36歳で脳出血を発症して寝たきりとなった妻の介護と、2人の幼い子どもの子育てをしてきた松林さん(筆者撮影)
子育てと介護が同時期に発生する状態を「ダブルケア」という。ダブルケアについて調べていると、子育てと介護の負担が、親族の中の1人に集中しているケースが散見される。
なぜそのような偏りが起きるのだろう。
第12回は、36歳で突如脳出血を発症し、緊急手術後、失語症や意識障害を伴い、寝たきりとなった妻の介護と、2人の幼い子どもの子育てをしてきた男性の事例から、ダブルケアを乗り越えるヒントを探ってみたい。
「あのね、身体の右半分が動かない」
東京都在住の松林夏朗さん(仮名、41歳)は、大学時代に妻と出会い、約10年の交際を経て、松林さん30歳、妻29歳のときに結婚。2013年に長女、2016年1月に長男が生まれた。

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記者をしていた妻は育児休暇中。松林さんはSEとして働き、長女は保育園に通っていた。
2016年3月。雪混じりの雨が降るなか、妻は長男の写真を撮るために写真館へ出かけた。写真館に着いた妻は身体に異変を感じ、夫に電話する。
「あのね、身体の右半分が動かない」
松林さんは一瞬頭が真っ白になったが、「すぐに行くから!」と答えて会社を飛び出した。
この電話を最後に、妻の声が二度と聞けなくなるとは夢にも思わなかった。妻は直後に嘔吐し、意識喪失。写真館の人が救急車を呼び、息子を抱いて同乗してくれた。
松林さんが駆けつけると、「奥さんは脳出血をしている。症状は重いが、まだ若いので回復する可能性はある。手術をしますか」と医師にたずねられる。松林さんは「お願いします!」と答え、「頑張れ! 絶対に家に帰るよ!」と手術室に向かう妻に声をかけた。
15時。3歳の娘は保育園。息子は待合室で写真館の人に預かってもらっている。
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