だが、在宅療養に前向きな松林さんに対し、2人の母親は難色を示した。松林さんは、母親たちをどう説得したものかと苦悩する。
5月。松林さんは、障がい者支援センターや看護師に相談し、在宅介護をイメージしやすい資料を作成。両家の父親も呼び寄せ、家族会議を開く。
「最優先すべきは妻の回復なので、回復に必要な刺激が最も多い在宅療養にしたい。家族には介護の負荷がかかるが、大変だからと諦めるのではなく、何とか工夫してうまくできるようにしたい」と熱弁するも、母親たちからはネガティブな意見ばかり。
普段は温和な松林さんも、「病院だと退屈な毎日を過ごすだけになる! 無理かどうかはやってみないとわからない!」と憤然としてしまう。
数日後、妻の病室に子どもたちを連れて行くと、寝ていた妻が子どもを見ようと頭や上体を起こし、子どもに触れようと左腕を伸ばした。
それを見た松林さんは、「子どもたちがいると自然と身体が動くんですね。これ以上のリハビリはないですよ。やっぱり子どもたちと一緒に過ごすことが妻の回復にはいちばんです」と義母に言った。
すると義母も、「この子は私の娘であると同時に母親なんだ」ということを再認識。在宅療養に前向きになってくれた。
5月下旬。「家族の協力が得られるなら在宅介護は不可能ではない。家族の協力が得られる今のうちに自宅で刺激の多い生活をして脳の回復を促し、できるだけ早く介護にかかる負担を減らすという方針は理にかなっている」と医師からOKが出た。
「頑張れ! 絶対に家に帰るよ!」
6月末、1年3カ月ぶりに妻は帰宅。
松林さんが「やっと帰ってこられたね」と言うと、妻はうなずいた。
「妻を手術室に送り出したとき、『頑張れ! 絶対に家に帰るよ!』と声をかけましたが、その約束をようやく果たすことができました。今後は自分たち家族に介護の負担がかかり、それが続くわけですが、妻にとっては子どもたちの成長を側で見守ることができ、子どもたちと遊ぶことで脳の回復を促す刺激をたくさん受けることができます。
子どもたちにとっては母親が側にいることで安心感を得られるはず。私の選択は間違ってないと信じています」
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