京大教授の看護師が挑む「がん緩和ケアの究極」 心の領域にも踏み込んで、痛みを和らげる

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医学や看護学の知識で対応しようと思っても、その精神的な苦悩を和らげることは容易ではありません。ほんとに話を聞かせていただくしかない。医療者として、とっても苦しいなと感じていました。それで、スピリチュアルケアを研究しようと、大学院の修士課程に進んだわけです。

田村 恵子(たむら・けいこ)/1957年生まれ。がんサバイバーらが支え合う場「ともいき京都」代表。NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』(2008年)で紹介されるなど、日本を代表するがん看護専門看護師として知られる(写真:益田美樹)

そうしたら先生からまず「あなた、何年大学院にいるつもり?」と聞かれたんですよ。私が「2年間です」と答えると「じゃあ、このテーマは大きすぎるよね」というご指導を受けた。

そのときに初めて「そんな大きなテーマに取り組もうとしていたんだ」と気づかされた。

スピリチュアルケアは、かなり職人芸なんです。緩和ケアを深めていくことによって、ケアしないといけない、ケアできると思っていた自分が傲慢だったことに気づき、患者さんの傍らにいることができれば、十分ケアになりうるという感覚が持てるようになったんです。

でも、それはたくさんの経験の中で獲得するもの。スピリチュアルケアをもう少しみんなができるように、研究して標準化したいと考えました。

スピリチュアルペインは「うつ」ではない

――心の苦悩、つまり、スピリチュアルペインについては、医療者の間でも認識が広まってきましたね。

オンコロジスト(がん治療に従事する医療関係者)や精神科医の間では、「いや、それはうつの重症化したものでしょう」といったご批判もすごくあったんです。でも私は、うつではなく正常だからこそ感じる「なぜ私が」という苦悩があると感じていました。

「がん」と言われた瞬間、「再発しましたよ」と言われた瞬間、それから「もう残り時間が短いですね」って言われた瞬間、「なぜ私がこんな苦しい思いを抱かなければいけないのだ」と感じる。その苦悩です。それって、正常だから表れる苦悩じゃないでしょうか。

「スピリチュアルペインを和らげないといけない」という医療者の発想も強くなってきました。ただ、そんな医療者の中には「スピリチュアルペインは自分にはよくわからない」という人が多いんですね。「なんでこんな病気になったんやろう」という患者に対し、「そんなこと言わずに頑張りましょう」みたいな方向で励まして終わり。

患者さんにすれば、「誰にもわかってもらえない」ということが増えてきたんです。医療従事者がこういう対応をするようになると、患者さんによってはケアではなく公害。そこをどうにかしないといけない。

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