年の瀬に思う日本の「医療観と安楽死」の是非 ALS患者女性の嘱託殺人事件を患者学で考える

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生産的であることと、効率と能率を重んじ、生産に貢献しない者や弱者を社会から切り捨てようとする方向に進んでいる社会環境の中で、一連の事件がおきたものと解釈できる。

障害や病気をもつ人、高齢者が厄介者にされ、社会のお荷物とされるとき、障害者や病者はその社会の中で生きる希望をもてなくなるだろう。実は誰もがその当事者になる可能性を持っているのであり、そうなったときにも、生きている価値がないと考える必要がない社会、生きていてはいけないという不安を抱えることのない社会とすることが必要なのだ。

ケアすることとケアされることを大切にする社会

わが国においてスピリチュアル・ケアの必要性を訴えてきたWキッペス神父は、著書『スピリチュアルケア』の中で、ケアを受けることと提供することについて、次のように述べている。

「人にとっての苦痛は、お世話になること、邪魔者になること、迷惑をかけること、役に立たない人間にみられること、面倒をみてもらうこと。ケアされることと、ケアすることは、ともに最も人間的な行為である。人間は人間である以上お世話になる存在であり、お世話になるのは当然である。人間は1人で生きていられず、相互にお世話にならざるをえない存在である。お世話になることは病気になっているためではなく、人間であるからである」

最も人間らしい行為はケアをすることとケアをされることである。ケアすることと、ケアされることを大切にする社会をつくることが、目指すべき未来の社会創りではないだろうか。近未来には、AIやロボットが活躍し生産性が向上するため、既存の多くの仕事はAIやロボットにシフトすることになる

富がある程度公正に分配されることを前提に、人間が行うべき仕事は、機械ではできず人間にしかできない仕事となるだろう。そのとき、最後に残される人間の仕事は、最も人間的な行為であり、それはお互いにケアされケアをするということになるだろう。

ジャズのスタンダード・ナンバー「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」の別の題名をご存じだろうか? 「イン・アザー・ワーズ」が原題であった。「私を月に連れていって」という言葉は、別の言葉に置き換えると「私を抱きしめて」という意味だというものだ。言葉は表面的にだけ解釈してはならない。

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