年の瀬に思う日本の「医療観と安楽死」の是非 ALS患者女性の嘱託殺人事件を患者学で考える

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2020年の年の瀬に、あらためて病者、障害者、高齢者が「希望を見つけられる社会」について考えてみませんか(写真:Laikwunfai/iStock)

2020年を振り返り、患者学の視点から考えたいのは何といっても、7月に2人の医師が逮捕された「ALS患者女性の嘱託殺人事件」だ。

京都に住む筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性がSNS上で知り合った医師による嘱託殺人のために死亡した事件だ。この事件だけではなく、近年「人生の終末期の医療のあり方」や「いのちの尊厳と医療」について考えさせられる事件が続いていた。

2019年11月には、厚生労働省が作成した人生の最終段階の医療について話し合おうという「人生会議」のポスターに対して、「治療を現在受けている患者への配慮が欠けている」など患者団体からの批判で炎上。ポスターの配付が中止となる事件があった。ポスターの制作は吉本興業に依頼したものであり、4070万円もの金額をかけての契約であったことも明らかにされ話題となった。

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2020年春には新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起き、欧米諸国の医療施設では高齢者には人工呼吸器をつけないなどのトリアージが施行されていることが報道された。

筆者は、患者の意思を重んじることが医療の基本にあるべきであると考えているが、「自己決定権」に社会の圧力がかかり患者の本来の望みとは異なる決定を迫られることを危惧している。今年最後に、医療における「自己決定権といのちの尊厳」の問題について考えてみたい。

京都ALS患者の嘱託殺人事件から

嘱託殺人のために逮捕された2人の医師は、ALSの女性患者とツイッター上で知り合い、頻繁にやりとりした後に患者宅を訪れ殺人に及んだ。殺人事件の前に、患者から計130万円が2回に分けて振り込まれていたことが報じられ女性患者の依頼があったとされている。

この事件は致死薬を投与しての死亡であり積極的安楽死に相当し、いわゆる尊厳死に該当しない。尊厳死の前に「いわゆる」をつけたのは、尊厳死という言葉に世界に共有される定義がないためである。

安楽死は、致死薬を使用する「積極的安楽死」と、治療を差し控えたり中止をする「消極的安楽死」の2つに分けられる。わが国では、消極的安楽死を尊厳死としていることが多いが、アメリカ・オレゴン州などの尊厳死法では、医師が致死量の処方箋や薬をわたし、患者が自分で服薬して自殺するという医師幇助自殺(PAS)、すなわち積極的安楽死を尊厳死としている。

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