不機嫌上司から身を守る「程よい距離の取り方」 自分の心に境界線を引いて、わがままに生きる

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その後、A子さんは上司とどのように関わったか、私と定期的に振り返ることにしました。ところが次の来室時、戸惑った様子で訴えてきました。

A子:「この1週間、上司がイライラするたびに、“これは上司の責任。私が原因ではない。境界線を引いて『わがまま(ありのまま)』になる”と、何度も自分に言い聞かせ、頑張りました。そのためか、今までよりは、上司と距離をとることができるようになりました。でも……」

私:「――どうしました?」

A子:「いつも機嫌の悪い上司に、“ねぎらいの言葉をかける”は、抵抗感があって……。それでも、練習だと思って、無理してやってみました。だけど、たえられない、やりたくないです。もうこれ以上自分にうそをつくのは嫌です」

私:「そうですか……。私はつらい提案をしてしまったようですね。ですが……それは、よかった。何よりでした」

A子:「え?!なんのことかわかりません。私、本当に今、嫌なんですよ。何がよかったのか、ちゃんと教えてほしいです」

私は「よかった」とお伝えした理由を説明しました。

自分がどうしたいかに気づくことができた

A子さんは、意図して境界線を引きつづけたことで、いつも上司からふりまわされる状態から、距離を取れるようになりました。

『ふりまわされない自分をつくる 「わがまま」の練習 心の中に線を引けば全部うまくいく』(KADOKAWA)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

それによって、「上司の機嫌に左右されて困っていた」状態から、「自分は無理をしつづけてきている。もうたえられない、嫌だ、やりたくない」と、自分がどうしたいか、実感をもって気がつくことができたのです。

つまり、ありのままの自分――「わがまま」な自分に気づいたのです。

A子:「これまで、上司が不機嫌だと、自分が悪いように思えて、いつもおどおどしていたのですが……。これからは『もし何かありましたら、言ってくださいね』などと、タイミングを見て声をかけたり、それとなく資料を取りに別の部屋に移動したりして、ほどよい距離がとれるよう工夫してみます。どんなときも、境界は自分が決めることができるんですね」

A子さんは笑顔でカウンセリングルームをあとにしました。

谷地森 久美子 公認心理師・臨床心理士

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やちもり くみこ / Kumiko Yachimori

公認心理師・臨床心理士。東京学芸大学大学院教育心理学講座修了。精神医療・学校臨床・産業(EAP)、各分野で10年以上の臨床経験を積んだ後に2009年より東京都内に心理オフィスを構える。心の専門家として約30年の活動を通し総計4万件の相談実績を持つ。現在、公立学校スクールカウンセラー、明治大学学生相談室相談員、神奈川県教育委員会スクールカウンセラー・アドバイザー(横須賀市担当)も兼務。

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