日本はバイデン政権とどう付き合ったらいいか 貿易・気候変動対策を読み解く重要なポイント

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また、民主党の政策綱領には「国境炭素調整費」(carbon adjustment fee at the border)への言及があり、選挙後もこの主張を確認している。これは、国内において炭素税・排出枠・規制等の措置で排出削減を実現しても、気候変動対策が不十分な外国から炭素集約度の高い製品の輸入が増加(リーケージ)すれば、世界の排出は減らず、また国内産業が不利な競争条件に置かれるため、それを避けるために課す関税のことだ。

同様の政策はEUが先んじ、「欧州グリーン・ディール」の一環として、「炭素国境調整メカニズム」(carbon borer adjustment mechanism)の2021年導入に向け検討が進んでいる。トランプ政権は、EUのこの措置は保護主義で報復関税を課すと批判したが、バイデン政権でスタンスが180度転換する。

確かに、こうした国境調整税は、偽装した保護主義として使われないよう注意が必要だ。EUは域内排出削減策の主力がEU排出量取引制度(EU ETS)だが、対策が不十分な外国からの輸入に際して課す関税(国境調整税)を、EU ETSの排出権価格以下に抑えることで、国内企業優遇とならないよう工夫する。

アメリカでは国としての制度設計は未了だが、ジョージタウン大学のJennifer Hillman教授等が今年10月に発表した提案では、アメリカ内での炭素税の導入を前提に、国内事業者の炭素税負担を超えない範囲で輸入関税を課すことでWTOルール上許容される措置とする(GATT Art.II 2(a)、Art. III)。

アメリカ企業の輸出には炭素税還付を

また、アメリカ企業が輸出する場合には炭素税還付を提案、非差別的で炭素税が上限であればWTO補助金協定(ASCM)に反しないとする

Hillman教授等の案は、外国の気候変動対策を評価するのは困難なので、すべての国との炭素集約度の高い物品の輸出入に関して、アメリカ内の炭素税を基準に関税賦課または還付を行うというもの。「生産地負担から消費地負担」への転換である。結果的に、外国にも炭素税プラス国境調整税という同様の制度導入の誘因が生まれ、世界的にカーボンプライシングの導入が進むと説明する。

わが国も菅首相が10月に、2050年までに温暖化ガス排出のネットゼロとの目標を公表。あらゆる政策手段を活用するとしつつ、当面はイノベーションを促すための(税額控除を含めた)財政措置を重視する印象だ。「イノベーション」の効果は一企業を越える「正の外部性」があることから、財政を使い効果的に支援することは重要だ。

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