「ポストコロナ」米中いずれも勝者になれない訳 「それ以外の世界」が新秩序のカギを握る

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ポストコロナの国際秩序を展望する(写真:photoguns/iStock)
新型コロナウイルスの猛威によって、日本を含む世界の社会と経済が大きな打撃を受け、ポストコロナでは国際政治や世界経済の構造や秩序が大きく変化してしまうことが予想されます。
ポストコロナの世界はどのように変容してしまうのか。コロナウイルスが私たちに突き付ける歴史的意味とは何か。ジャーナリストでシンクタンクのアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)を率いる船橋洋一氏と国際政治学者でAPI上席研究員でもある細谷雄一・慶応義塾大学教授の緊急対談第2回をお届けします。(本対談はオンライン会議で行われました)
第1回:ポストコロナ「日本特殊論」との決別が必要な訳(2020年5月4日配信)

マスク外交の陰と初動の失政

船橋 洋一(以下、船橋):第2回はポストコロナの国際秩序について展望したいと思います。第1回ではペストの後、中世の欧州世界を支配していたカトリック教会の権威が失墜し、近代国家の時代の幕が開けたとの指摘がありました。では、ポストコロナの国際秩序はどのように変容するのでしょうか。コロナ後、守護者としては後退した当時のカトリック教会に当たるところはどこか、そして、新たな守護者として前面に出てきた近代国家に当たるのは何なのか? そういう問題意識の下、国際秩序の変容を告げるどのような予兆が生まれつつあるのか、見ていきましょう。

細谷 雄一(以下、細谷):ポストコロナで優位に立つのは、コロナから世界を救ったと認識された国や勢力だと思います。ですが、結論を先に言えば、覇権を握るのが具体的にどの国や勢力となるのか現状では予測できません。一方、中国とアメリカがともに「敗者」になる可能性は高いと思います。

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死と直面することになった場合に、人々は「誰が救ってくれるのか」ということを考えます。教会はペストから人々を守れませんでした。スペイン風邪では、第1次世界大戦中だったこともあり、ドイツ政府や、イギリス政府、フランス政府など、戦意を消失させないためにも感染の事実を隠蔽し、多くの人の命が失われました。意思決定権者の判断が人々を犠牲にしたわけです。

今回も政治指導者が判断を誤れば、人々の間に不信感や怒りの感情が噴出し、政府や指導者が信頼を失い、権威を失墜させる可能性があると思います。困難に直面する状況のなかでは、人々ははたして誰が自分たちを救済してくれるのかということに非常に敏感になっています。ポストコロナの世界では、そのことが政治的な正統性と連動していくことになるのだろうと思います。

細谷 雄一(ほそや・ゆういち)/1971年、千葉県生まれ。慶應義塾大学法学部教授。立教大学法学部卒業。英国バーミンガム大学大学院国際関係学修士号取得。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(法学)。北海道大学専任講師などを経て、現職(写真:本人提供)

国際社会も同様です。第1次世界大戦のあとには、ソ連という新しい国家が誕生し、貧困層の救済者という宣伝を通じて、社会主義者や共産主義者がその時代の多くの人々を魅了しました。他方で、第2次世界大戦後のアメリカのマーシャル・プランを通じた経済援助は、欧州におけるアメリカの政治的権威の拡大に帰結しました。ポストコロナの世界でも、人々から「救済者」だと認められた国や勢力は力を増し、信頼を失った勢力は国際秩序の中で影響力を低下させる可能性があります。

中国はすでに各国に大量のマスクを送り支援しようとしています。イタリアやスペインは中国に感謝していますが、他方でフランス政府は、中国がマスクと引き換えにファーウェイの5Gの利用を強要していることを批判しました。人道的な支援と引き換えに、ポストコロナの世界で優位に立とうとする中国の戦略的な意図が透けて見えます。それが露呈すれば、優位な地位を得るどころか、信頼を失い反発を招く可能性もあります。

今回の危機では、中国、アメリカの両国ともに、初動の判断を誤ったと思います。中国政府は感染症発生当初、武漢での感染の実態や死者数を隠蔽しました。アメリカはトランプ大統領が事態の深刻さを理解できず楽観視することで初動を誤り、感染を拡大させました。結果、両国は国内外の信頼を大きく失いました。私はアメリカも中国も共に敗者となる可能性があると思います。

次ページ人々は危機が深まると政治体制を問わない心情になる
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