「ポストコロナ」米中いずれも勝者になれない訳 「それ以外の世界」が新秩序のカギを握る

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船橋:そうですね、米中どちらも世界のリーダーの役割は果たせなかったことは確かですね。中国武漢で発生した直後の中国の“人命ファースト”ならぬ“政治ファースト”の対応のひどさについて中国国内からも強い批判が起こりました。北京から高官が武漢を現地視察したとき、アパートの上の階の住民たちが「嘘だ」「みんな嘘だ」と叫んだと報道されていますが、「危機管理をちゃんとやっています」「日常が戻りつつあります」という地元の党幹部のパフォーマンスへ心底怒りがこみ上げたのでしょうね。

船橋洋一(ふなばし よういち)/1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など(写真:本人提供)

ただ、人々は医療崩壊と介護崩壊が始まり、危機が深まってくると、どんな政治体制かにはおかまいなく「白猫でも黒猫でもネズミをとる猫がいい猫だ」という心情になってくる。つまり、民主主義国であろうが、全体主義国であろうが、感染拡大と死者を最小限に抑え込む国が頼りになる、他のことは目をつむっても、命を守る、いやそれこそ“種を”守る体制のほうが、そうでない体制よりいい体制だとなる。

中国が公表している数字を直ちに信じることはできませんが、個人のプライバシーや人権も無視してでも、力づくで感染拡大を封じ込めたことは間違いない。少なくともコロナ戦の緒戦ではそういうことが言える。タイの首相が言ったように「いまは健康が自由より優先される」ということなのかもしれない。その点でいえば、アメリカは明らかに敗者で、中国が勝者に見えます。しかし、中国の体制は都合の悪いことは隠すし、うそをつく、そして他を欺くことを世界の人々はいやというほど知った。実は、中国も真の勝者ではない。米中とも勝者ではない。下手すると、このまま事態が悪化すると、民主主義体制が最大の敗者ということになるかもしれない。

「最後の砦」がやはり政府しかないという現実の中で

ただ、アメリカだろうが中国だろうが、どの国だろうが、最後に人々を守る砦は国家なのだ、それは政府の仕事そのものなのだ、ということを人々は痛切に感じているのではないでしょうか。その一方で、インターネットの時代にあっては、世界中の人々がリアルタイムで、自国の政府の対応と他国のそれを比較し、対応の良しあしを日々、採点しています。「最後の砦」がやはり政府しかないという現実の中で、人々はその面から政府の“格付け”をしている。

危機対処の失敗は、直ちに国民の政府への信任(トラスト)の喪失につながり、国民の信任(トラスト)を失えば政府の危機管理は難しくなる。政権や政体のレジティマシー(正統性)はますます結果を出せるか否か次第となる。今回のように政府が国民にStay Homeやソーシャル・ディスタンシングや休業を求め、つまり自由を束縛するとき、国民の政府に対する信任(トラスト)は決定的に重要な要素となってくる。検閲・監視国家の中国といえども、命、健康、食品安全、環境といった問題では、世界と中国の状況を比較し、それを認識する中産階層が声を上げるということも今回、中国のネット空間で見えたところです。

そこで、ポストコロナの世界秩序を考えるうえで、コロナ危機を通して見えてきた各地域、各国の課題を伺いたいと思います。まず、多くの犠牲者と感染者を出す惨状を呈している欧州の課題をどう捉えておられますか。

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