意外と知らない「美術館」展示開催までの舞台裏 コロナで作品が日本に届かないという事態も

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今回の事態を受けて飯島氏は、「当館では2年前ぐらいから立案を始めることが多いですが、重要な作品は早めに借りる交渉を始めることが必要ですし、スケジュールに余裕をもって動くことが、ますます必要になると思います」と語る。緊急時に備えてコレクションだけで構成できる、スペアの企画を作ることも必要かもしれないとも。

飯島氏によると、東日本大震災の後、消費電力を抑えることへの期待もあって、LED照明への切り替えが進む傾向が見られた。「コロナの影響では、会場に来られない人のために動画やウェブ展覧会の内容を紹介する動きが進むと思います」。

奈良県立美術館でもユーチューブチャンネルを立ち上げ、8月23日に開いた展覧会の講演会を配信。定員を30人に絞ったところ、90人からの応募があり、抽選で外れた人をフォローするといった必要も生じた。

今後は、展覧会のPR映像や、出品が見込まれる作品の解説映像の制作なども検討しているという。会場以外でも展覧会に接する仕組みが普及すれば、美術への関心がより一層高まるかもしれない。

混雑の中で見る必要がなくなった

今回は2つの美術館を取り上げたが、多くの美術館でコロナを機に始まったことといえば、予約制の本格導入だろう。近年を振り返ると、「フェルメール展」や「ムンク展 共鳴する魂の叫び」など、60万人以上を動員する展覧会が相次いだが、コロナ禍でこうした密になる状況を避けるための施策だ。

実はアーティゾン美術館では、開館当初から日時指定予約制の導入を決めていた。「ふらりと入れない」と批判も起こったが、コロナ禍によりその声も小さくなり、むしろ「先進的な取り組み」に注目する人が増えた。

同館では、使い勝手のいい予約制にするため、入館10分前までの予約を可能にする、予約に空きがあれば窓口でも購入できるようにする、11月から開催される『琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術』展でローソンチケットを導入するなどの工夫もしている。

日本ではこれまで、世界各地の美術作品が集まる展覧会を気軽に観に行くことができた。また、日本美術への関心も高まっている。2003年の指定管理者制度を受けて、功罪はあるにせよ人を集める工夫を凝らす館が増えたことは、美術ブームをもたらした要因の1つである。

コロナ禍で美術館が軒並み休館し、あるいは楽しみにしていた展覧会が延びるなどして、美術作品を鑑賞する楽しみを再確認した人は多い。コロナ禍は、美術作品はどう観られるべきか、改めて考える機会となったのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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