ジョブズは私達を世界に繋ぎ孤独な存在にした 1人1台のコンピューターは全人類を覆う現実に

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「Beware of illusion」(幻想に惑わされるな)ロータス・デベロップメント設立者でLotus1-2-3の開発者。ボストンのオフィスにて。ミッチー・ケーパー 1990年5月18日(撮影:小平 尚典)

ツイートをするときのドナルド・トランプは、同じような自己中心の感覚、ドラッグ体験にも似た全能感を味わっているのかもしれない。モノトーンで繰り返される自国第一主義的な発言は、ぼくたちのサイバー・スペースでの体験と無関係ではないだろう。現在の世界は、70数億の自己中心的な「トランプ」によって構成されている。70数億の卑小な神がネットワークによってつながっている。これは前代未聞の異常な事態といえる。

ぼくたちは「自分」を中心として、全球的に無際限につながっている。自己が世界の中心を占めているという全能感は、裏を返せば、その自己をめがけて世界が押し寄せてくるということでもある。あらゆるレイヤーからの膨大な情報が不断に、かつ瞬時に「私」に向かって殺到する。有用な情報もあれば無用な情報もある。有益な情報もあれば有害な情報もある。いずれにしてもグローバルなネットワーク社会において、ぼくたちはつねに情報のオーバーフロー状態にさらされている。

インターネットは戦時下に軍、大学、民間企業のパートナーシップから生まれたものだ。当初の目的は攻撃を受けた際に早期警報を出し、迅速に応戦準備を整える防空システムの構築だった。これが一般市民と営利企業に公開された。つまり防空システムがぼくたちの日常になったわけだ。つねに敵から攻撃を受ける危険にさらされているため、24時間年中無休で応戦態勢を整えておかなければならない。

誰もがジョブズと同じような孤独感と孤立感に

そして敵が現れたときは1人で戦うしかない。なぜならぼくたちは相互につながっているけれど、そのネットワークは「関係ない」というアーキテクチャーで設計されているからだ。1人ひとりがモナドとして孤立無援である。しかも誰もが同じ環境、同じサイバー・スペースを生きているから、その行動は恐ろしいくらいに画一的なものになる。万人が同じように考え、同じように判断し、同じように行動する。遍在化したウェブが個人の人生や体験を吸い上げて、誰のどの人生も似たようなものになる。

誰もが孤独の惑星に住んでいる。かつてジョブズが自分の惑星に1人で住んでいたように、いまや70数億の似たり寄ったりの人類が、それぞれの惑星に1人きりで住んでいる。そしてジョブズと同じような強い孤独感と孤立感にとらわれている。ぼくたちは世界中の人たちとつながっているけれど、誰ともつながっていない。24時間年中無休で自分自身にしかアクセスすることができなくなっている。1人ひとりが「自分」を中心として無際限につながっている。この無際限さは自分自身へ向けての無際限さだ。いまや万人がジョブズになってしまったのだ。あたかも彼はスマートフォンなどのガジェットによって、人類を自分のクローンにしてしまったかのようだ。

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