新型コロナウイルスで亡くなった場合、遺体は感染予防のために病院内で非透過性の納体袋に入れ、そのまま納棺が行われる。そのため、遺族は対面が叶わない。
志村けんさんの場合も、遺族は、出棺には立ち会っているものの、非透過性の納体袋に入っていて開封されないために対面はできず、さらに、火葬場へ立ち入ることができなかったため、火葬にも収骨にも立ち会うことができなかった。
もっとも、火葬場の運営方法は火葬場により異なり、遺族が火葬場へ立ち入ることができないところは少数のようだが、火葬に立ち会うことができても非透過性の納体袋が開封されないために対面できないことが多いようだ。
葬儀の制限が多く悲しみもより大きい
このように、平常時に比べて非常に制限された葬送しか行われていない現状に対し、民俗学者で葬送分野に造詣が深い国立歴史民俗博物館の山田慎也教授は、「今回の場合、先の東日本大震災と同様、今まで当たり前に行われてきた死者への儀礼が、いわば外側の力によってできないということになり、悲しみはよりいっそう大きくなっています。だからこそ、死者への儀礼は欠かせないのです」と話す。そこで今回は、葬儀に関するそれぞれのプロセスを、民俗学の視点から見ることで、感染症で亡くなった人の弔い方を改めて考えてみようと思う。
まず病院で亡くなると、通常は遺体を自宅に搬送し、布団に横たえて安置。枕飾りを設ける。現在は葬儀社などの霊安室に安置する場合も多く、自宅での枕飾りはあまり行われなくなったものの、遺族が自宅安置を希望すれば可能だ。ただし今回は希望しても感染リスクを避けるために叶わない。
遺体安置ができなくても、故人と向き合う場を設定することもできる。新潟県佐渡市では、遺体のそばに枕飾りを置かない。臨終後、遺体は納戸など生前故人が寝ていた部屋に横たえられるが、この部屋に入るのは近親者のみで、戸は閉められている。(山田慎也『月刊住職』259号)
すなわち、寝室自体が喪屋のようになっている。その部屋を拝するために部屋の外側には屏風を逆さにして机を置き、香炉や燭台、供物などを載せる。つまり、間接的な枕飾りがなされているのである。
このような間接的な礼拝空間の設置は、近代化が進む台湾や韓国などアジア地域でも広まりつつある。
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