民俗学から学ぶ感染症で亡くなった人の弔い方 対面が叶わない中で、どう故人を供養するか

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また今回は、コロナウイルス感染で亡くなった人だけでなく、それ以外の理由で亡くなった人も、感染防止の観点から火葬を先に行う遺族が多くなっている。火葬だけで終わりにして、葬儀を行わないことを「直葬」といい、近年、都市部を中心に増えてきており、東京では葬儀件数の3~4割ほどを占めるようになってきているとの声もある。

遺族が納得していれば問題ないが、葬儀を行いたい遺族にとって「直葬」は大きな問題になっている。そこで想定されるのが「骨葬」だ。骨葬というのは、あらかじめ火葬を済ませ、遺体ではなく遺骨を対象に葬儀を行う形式である。骨葬を行っている地域は、北海道、東北、東京近郊以外の関東地方や、中部地方、和歌山、九州の一部などにモザイク状に広がっている。

それ以外の地域では、葬儀を済ませた後に火葬を行っているため、火葬を先に行うことに対する違和感は今でも強い。それでも、感染リスクを考えると、葬儀前の火葬も視野にいれる必要があるだろう。

過去にも火葬を先に行っていたケースも

なお、近年までは、とくに社葬などの大型葬においては、「密葬と本葬」という呼び方で、火葬を先に行って近親者だけで密葬を行い、後日、多数の参列者を含めた葬儀を本葬として行っていた。この場合の密葬は、火葬という遺体への対処を先に行うということが主目的になっている。

さらに遡ると、近世期においては「空荼毘(カラダビ)」という、遺体埋葬が終わった後の葬礼を意味する用語があった。荼毘は、火葬だけでなく葬儀の意味もあるので、遺体なしの葬儀という意味と捉えられるという。

最上孝敬氏の『霊魂の行方』によると、千葉県匝瑳郡野栄町(現匝瑳市)の堀川地区ではカラタビを、カラダメといい、近親者と僧侶だけで墓地に埋葬し、その後、家に帰って葬儀を行った。その理由は、かつて、ある旧家での葬儀の途中、一天にわかにかき曇って疾風が起こり、火車が現れて棺内の遺体がさらわれたため、堀川ではその後、カラダメを行うようになったという。

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