皆さんも「ヘボン式」という名前をどこかで耳にしたことがあると思いますが、それが考案者のHepburnの名前のことだったというのはご存じでしたか。筆者は今回初めて知りました。たしかにHepburnと英語で発音すると、「ヘボン」と聞こえなくもないですね。ご本人が日本では「ヘボン」と名乗っていたという説もあるようです。
でも、女優のAudrey Hepburnは「オードリー・ヘボン」ではなく、「オードリー・ヘプバーン」とか「オードリー・ヘップバーン」と言いますよね。Hepburnは「ヘボン」と決めたのであれば、「オードリー・ヘボン」に統一してほしかった……。英語のカタカナへの置き換え方法もさまざまのようですね。
表記の混在から統一へ
このヘボン式が急速に広まってくると、1885年(明治18年)に田中舘愛橘という地球物理学者がヘボン式の使用に反対して、日本語の五十音図に合わせた「日本式ローマ字」を提唱します。これによって、「ヘボン式」と「日本式」は激しく対立をしていったそうです。
中央気象台や陸軍省陸地測量部、海軍水路部、海軍省などが「日本式」を採用する中、鉄道省は「ヘボン式」を採用。「ヘボン式」と「日本式」の2つができたことで、日本国内でローマ字表記法が定まらないという問題が生じてしまいました。すると、海外でも日本の地名表記法に困惑、1928年(昭和3年)には万国地理学会会議が、地名のローマ字表記を統一してほしいと、日本政府に依頼する事態に陥ります。
1930年(昭和5年)に臨時ローマ字調査会が設置され、議論の結果、日本政府は1937年(昭和12年)の内閣訓令第3号をもって、ローマ字表記の方法を統一しました。このときに制定されたローマ字表記は「訓令式」と呼ばれています。この「訓令式」は「日本式」に近いスタイルだったそうです。「ヘボン式」を使用していた鉄道省も、これを機に「訓令式」を採用します。
「ヘボン式」と「日本式」の対立から、「訓令式」への統一が叶い、ローマ字紛争も一段落かと思いきや、1945年(昭和20年)に連合国軍最高司令部(GHQ)が公共の建物や駅などの名称を「ヘボン式」で表記するように命令します。1937年の訓令は廃止されていませんので、日本としての公式なローマ字表記は「訓令式」ということに変わりはないのですが、街には再び「ヘボン式」が復活し、「訓令式」と「ヘボン式」が混在することになったようです。
そして、1954年(昭和29年)の内閣訓令第1号によって1937年の内閣訓令第3号が廃止され、新たなローマ字表記のルールが制定されます。この訓令は文化庁のサイトにも掲載されています。それは「訓令式」が基本の表記法であるとしながら、「ヘボン式」と「日本式」の使用も認めるという内容になっており、公式に「ヘボン式」「日本式」も復活をすることとなります。
筆者が東京駅で目撃したTokyoとTōkyōの表記の謎を解明すべく、3つのローマ字表記での長音記号の扱いを調べてみました。「ヘボン式」では、長音には原則としてマクロンという横棒を母音の上につけるようです。「日本式」や「訓令式」では長音にはサーカムフレックス(山形)をつけるとのこと。
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