また、ビザ申請にはこれに加えてもう1つの関門がある。エージェントの説明では、オーストラリアの場合、滞在予定の年数分の学費と生活費を賄える経済力があるという証明がなければ留学生ビザが発行されないという事情がある。
家族で考えあぐねていると、6月に入りエージェントから新たな提案が来たが、これも現状の打開策にはならなかった。
提案されたのは8月から現地校が行う特別枠のオンライン授業に日本から参加、各種テストや提出物をクリアし、基準を満たせばTerm3とTerm4を受講したものと見なすというものだ。渡航は2021年1月となるが、新年度を次の学年からスタートできるという。
しかし、学校側が設けた一定の基準をクリアできなければ、1月の入校後は前回の提案通り、留年してのスタートとなる。
また、オンライン授業を受講すれば、たとえ留年になったとしても、授業料が発生する。ただでさえ私立高校での授業料が余分にかかることになっているため、リスクが高いと判断した母親は、やむなくもう一つの選択である来年1月から一つ学年を下げての留学で申し込みを進めることにした。
「留年してスタートの場合、入学できても当初の予定より1ターム(約3カ月)ぶん留学期間が増えるため、ビザも再取得が必要です。残高証明の再提出を求められたらかなり苦しい状況です」
山本家は留学資金を貯めるのに実に7年を要した。
「今回、私立高校に入学する費用がかさみ、わが家の預金残高は減っています。そんななか、日本の学校では登校再開が決まり、制服の夏服も買わなければならずでした。ここへ来て、来年1月まで足止めが決まったので、日本の高校の学費は年内は支払うことになります。
コロナの影響で余分に払わなければならなくなった費用は、ざっと見積もっても450万円を超えます。本人たちは留学を楽しみにしていましたから、なんとか行かせてやりたいとは思うものの、このままだと、資金がつきて途中で帰国という可能性もあります」
母親の美由紀さんは落胆する。
「入学前」では国の制度も使えない
外務省のHPを見ると、山本家が留学予定だったオーストラリアをはじめ、アメリカ、カナダ、イギリスなど、留学先として人気のエリアはすべて渡航中止勧告となる感染症危険情報レベル3となっている。コロナの影響で留学予定が大きく変わったのは、山本家だけではないだろう。
海外では国により、現地にとどまる留学生を対象にした助成金など支援策を打ち出したところもあるが、山本家のケースのように、まだ留学生ではない、“入学前”の状況ではこうした制度は使うことができない。
留学関係の相談を受け付けているNPO法人留学協会によれば、こうした留学に関する相談件数は4月、5月と増えてきたという。同協会の担当者はこう語る。
「途中で留学が中断してしまい、日本に帰国している人からの相談も多数あります。いちばん多い相談は返金トラブルです。現地校からなんのフォローもない人たちがいて、彼らにはアメリカなど、オンライン授業を続けている通信制の学校の紹介もしていますが、これを受けるにもまたお金がかかり、なかなか難しい状況です」
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